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「161億円男」アザール32歳、ケガに苦しみ早すぎる引退…チェルシーで最強ドリブラーになれたのは“3人の名将”に学んだからこそ
text by
山中忍Shinobu Yamanaka
photograph byTakuya Sugiyama/JMPA
posted2023/10/22 17:01
ロシアW杯のエデン・アザール。レアル・マドリー移籍後は不遇だったが世界最高のドリブラーであったのは疑いようのない事実だ
同シーズン終了翌日に開かれたクラブ主催の表彰セレモニーで、指揮官から「来シーズンはもっとやってもらうぞ。選ばれたのはお前だ」と、チーム年間最優秀若手選手賞受賞を告げられたアザールは、チームメイトの前で「君らも来シーズンはもっとやってもらわないと」と言って笑わせてから、「監督の言う通り。まだ完成された選手じゃないから、『最高だ。無理するな』とか言われるより発破をかけられた方がいい」と進化を誓っていた。
明くる2014-15シーズン、背番号も17番から10番に変わったチーム最大の武器は、原動力となってモウリーニョ軍をプレミアとリーグカップの2冠に導いている。
コンテの時は「ナンバー10」として輝いた
続く2人の監督の下では、スタート位置は左ウイングのままでも、より「ナンバー10」的なプレーが可能になった。
意外に聞こえるかもしれないが、アントニオ・コンテ体制1年目の2016-17シーズンに「自由を感じる」と言っていたのは、第8節レスター戦(3-0)後のアザール自身。3-4-3システムが基本化され、ウイングバックがアウトサイドで攻守にハードワークをこなしてくれることから、自身はインサイドへの頻繁な出没が可能になった。
この一戦でも、センターサークル内からのパスに反応し、ペナルティアークから相手DF2名の間を抜けてネットを揺らした。
サッリボールにも見事にアジャスト
チェルシーで最後の2018-19シーズンには、アザールが先代の正監督2名とは「全然違う」と表現したマウリツィオ・サッリが指揮を任された。
コンテも、攻撃のキーマンがアウトサイドで負う守備の負担は減らしたが、ドリブルを止められれば即座の追走を求めた。モウリーニョには、守備面の貢献度が足らずにベンチスタートの「お灸」をすえられたことがある。
現在は鎌田大地が所属するラツィオで監督の任を預かり、ボールを支配して攻める“サッリボール”の指導者はというと、アザールがハットトリックを決めた第5節カーディフ戦(4-1)後、「相手ゴールから遠い位置でのエネルギー消費を控えれば年間40得点はいける」と言ってさえいた。
途中、CF陣の不発で「偽9番」役を任され、「ボールに触れる機会が減る」と言って浮かない顔をしていた時期もあった。ボールを持ってコンスタントに相手ゴールを脅かす姿がアザールの真骨頂だった。