ソフトバンクは2回に犠飛、3回にタイムリーで2−0とリードを奪った。4回我々はノーアウトランナー一、二塁で4番のサブローが打席に立った。私は彼にバントをさせず、結果はダブルプレーだった。批評家たちは結果論で批判した――「なぜあの場面でバントをしない？　併殺は最悪の結果じゃないか」と。確かに現実はそうなった。

　相手のエース左腕杉内は快投を続けていた。6回先頭の西岡がヒットで出塁した。マウンドには左投手がいるのに、私は本来やってはいけないことをした。西岡に盗塁のサインを送ると、西岡は見事二盗を決めた。ダッグアウトのムードが明るくなったのを感じた。

この年、盗塁王のタイトルを獲得していた西岡　©Hideki Sugiyama

　西岡は拳を振りながら立ち上がり、ワンアウト後に福浦が右中間を破る二塁打を放って2−1と詰め寄った。だが、走者二塁の場面でサブローはまたファウルフライに倒れ、里崎も凡退して同点にはできず、1点ビハインドで8回を迎えた。

もう一度、マサの時間がやってきた！

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　スター二塁手だった堀が、腰の状態が悪く交代を余儀なくされたので、私はルーキーの早坂圭介を途中から起用していた。8回の攻撃は彼からだったが、1995年は当時チームの中心選手として活躍していながら今は優れたキャリアの最終章を迎えていた三塁手、初芝を代打に送った。初芝が高いバウンドのゴロを三遊間に放つと、サードとショートが2人ともボールに向かって交錯し、一塁への送球が逸れて初芝はセーフとなった。同点のランナーが出て、後に通算2000安打に達した福浦がライト前ヒットで続いた。

　ここでサブローに打席が回ってきた。ここもまた送りバントのシチュエーションだったが、私はセーフティバントのサインを出した。彼は初球を見送り、2球目でファウルフライに倒れた。里崎が打席に入り、マウンドにはサブローの打席から登板したソフトバンクの守護神、馬原孝浩がいた。シーズン中、結構点を奪っていた相手だ。里崎は初球を打って左中間フェンスにぶつけた。二塁から初芝が還って同点。一塁ランナーの福浦は打った瞬間にスタートを切り、一気にホームへ駆け込んだ。クロスプレーだったが福浦のスライディングが一瞬早く、判定はセーフ、我々は3−2と逆転し、ダッグアウトはとんでもない騒ぎになった。 

　8回裏、ホークスはチャンスを生かせず、9回表の我々も得点がなかった。もう一度、マサの時間がやってきた！　試合を締めくくるべく、小林雅英がマウンドに向かった。

一死二塁のピンチ

　レフトスタンドでは、我々の応援団が無数の「I BELIEVE」のサインを掲げていた。掲げながら、ジャンプしていた。マサがベンチからマウンドに行く時間は、10分ぐらいかかったように思えた。そのとき、彼やすべてのファン、すべてのチームメートの頭の中で、どんなことがよぎっていたのか、私は想像することしかできなかった。

　私はマサを心から信じていた。彼がベンチを出るとき、彼に向かって「I believe !（信じているぞ！）」と叫んでいた。 

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