格闘技PRESSBACK NUMBER

「天下無双のヒョードルが負けるのか?」衝撃バックドロップでカメラマンもパニック…19年前、PRIDEに闘いの神が降りた“伝説の日” 

text by

長尾迪

長尾迪Susumu Nagao

PROFILE

photograph bySusumu Nagao

posted2023/10/06 17:26

「天下無双のヒョードルが負けるのか?」衝撃バックドロップでカメラマンもパニック…19年前、PRIDEに闘いの神が降りた“伝説の日”<Number Web> photograph by Susumu Nagao

ケビン・ランデルマンがエメリヤーエンコ・ヒョードルに放った「伝説のバックドロップ」の決定的瞬間

 しかし、どうしたことだろうか。失神したと見られていたヒョードルが、何事もなかったかのように試合を続けているではないか。詰め将棋のようにランデルマンを追い詰めると、最後はアームロックで鮮やかに一本勝ち。ヒョードルは咄嗟の判断で落下寸前に身体を反転させ、頭からではなく肩から落ちるように“受け身”を取っていたのだ。

 長くリングサイドで撮影を続けているが、ここまで動じてしまった経験は後にも先にも一度だけだ。これ以降は試合中に何が起こっても大丈夫なように、フラットでニュートラルな気持ちで撮影に臨むことを心掛けるようになった。ランデルマンとヒョードルが与えてくれた貴重な経験は、現在に至るまで私の撮影に大いに活かされている。

歴史に残る名場面が3つも生まれた「神興行」

 この日に行われた7試合は、すべてにドラマとストーリーがあった。第1試合こそ判定だったが、残りの6試合が一本かKOによる完全決着。トータルの試合時間は60分にも満たなかったものの、見るものに極上の満腹感をもたらしたスペクタクルな興行だった。桜庭和志、小川直也、吉田秀彦という日本人のトップ選手が揃って出場し、当時のPRIDEの象徴だったノゲイラとヒョードルも圧巻の強さを見せつけた。

 とりわけ以下の3つのシーンは、衝撃の大きさという観点から、間違いなくPRIDE史上に残る名場面だった。

 クイントン・“ランペイジ”・ジャクソンのパワーボム。セルゲイ・ハリトーノフのマウントパンチ。そして、ケビン・ランデルマンのバックドロップ。

 あらためてそれぞれの試合の写真を見返すと、空気や熱気、音、汗の飛び散る様まで、鮮明に蘇ってくる。ただ、あまりにも衝撃的な試合が続いたため、撮影中は各試合の記憶が次の試合に“上書き”されていくことが繰り返された。それぞれの印象が強烈すぎたせいか、つい最近まで3試合とも別々の日に行われたものだと思い込んでいたくらいだ。

 格闘技が持つ迫力や緊張感、美しさ、残酷さといった魅力がこれでもかとばかりに詰め込まれ、選手と観客が一体となって作り上げた濃密な時間。さいたまスーパーアリーナに闘いの神が降臨したかのような2004年6月20日のPRIDEは、まさに「神興行」と呼ぶにふさわしいイベントだった。

<前編から続く>

#1から読む
“ロシア軍最強の男”ハリトーノフがシュルトの顔面を血まみれに…「殴るというよりも破壊」カメラマンが震えた“最も凄惨な試合”の記憶

関連記事

BACK 1 2 3 4
#エメリヤーエンコ・ヒョードル
#ケビン・ランデルマン
#アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラ
#ヒース・ヒーリング
#吉田秀彦
#マーク・ハント
#小川直也
#ミルコ・クロコップ
#クイントン・“ランペイジ”・ジャクソン
#セルゲイ・ハリトーノフ

格闘技の前後の記事

ページトップ