- #1
- #2
格闘技PRESSBACK NUMBER
「天下無双のヒョードルが負けるのか?」衝撃バックドロップでカメラマンもパニック…19年前、PRIDEに闘いの神が降りた“伝説の日”
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph bySusumu Nagao
posted2023/10/06 17:26
ケビン・ランデルマンがエメリヤーエンコ・ヒョードルに放った「伝説のバックドロップ」の決定的瞬間
世界最強の男をぶん投げた「伝説のバックドロップ」
メインイベントに組まれたヘビー級グランプリ2回戦では、言わずと知れた“人類最強の男”エメリヤーエンコ・ヒョードルに、抜群の身体能力を誇るケビン・ランデルマンが挑んだ。ランデルマンは2カ月前のグランプリ開幕戦で、優勝候補のミルコ・クロコップを失神KOしたばかりだった。「世紀の番狂わせ」の主役が試合後に行ったマイクアピールは、ファンの心をわしづかみにした。
「この試合に臨む前、俺が怖がっていたと思うだろう? もちろん怖いに決まってる。俺だってみんなと同じ人間だから。だけど、YOU! YOU! YOU! お前らのために俺は闘ってるんだよ! お前らのためなら地獄を見てもいい。その地獄を潜り抜けて天国を見ると決めたんだ。また、お前らのために俺は闘うよ」
レフェリーに促されて両者が対峙した瞬間、観客は万雷の拍手と大声援を送り、この日いちばんの盛り上がりを見せた。それはランデルマンにかけられた“再びのジャイアントキリング”への期待と、天下無双を誇ったヒョードルへの敬意の表れだった。
ヒョードルの圧倒的な有利と思われたこの試合だったが、ランデルマンはパンチをフェイントに両足タックルを決め、鮮やかにテイクダウンを奪う。一瞬の隙をついてヒョードルが立ち上がるや否や、ランデルマンは流れるような動きでバックに回り両手で相手の身体をロック。この体勢になったときの練習は何度もしていたのだろう。彼は躊躇することなく、電光石火の垂直落下式バックドロップを仕掛けた。
捻りを加え、全身のバネをフル活用したため、ランデルマンの身体も宙に浮く。2人の全体重を乗せながら、逆さになったヒョードルの身体がマットに突き刺さった。「ドスン!」と落雷による地響きのような衝撃が広がる。私はカメラがブレないようマットに肘を付けて撮影していたが、思わず肘がマットから離れてしまうほどの振動だった。
その衝撃的な光景を目撃した誰もが、「終わりだ」と思ったはずだ。悲鳴とも驚嘆ともいえない声が、いっせいにリングに押し寄せてきた。カメラマンの仕事は目の前で起きたことを瞬時に整理して、画角を決めシャッターを押すことである。だが私は、世界最強の男がリングに頭から叩きつけられ、敗北を喫したであろう瞬間を理解できずにいた。すぐ目の前で起きたこともあり、正直なところ、私はプチパニック状態だった。