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格闘技PRESSBACK NUMBER
「天下無双のヒョードルが負けるのか?」衝撃バックドロップでカメラマンもパニック…19年前、PRIDEに闘いの神が降りた“伝説の日”
posted2023/10/06 17:26
text by
長尾迪Susumu Nagao
photograph by
Susumu Nagao
「想像以上」だったハントのMMAデビュー戦
小川直也のハッスルポーズで場内がふんわりとした多幸感に包まれる中、続く第5試合にも柔道出身の吉田秀彦が登場した。対するは、これがMMAデビュー戦となる“サモアの怪人”マーク・ハントである。
吉田は中学時代からエリート街道を歩み、バルセロナ五輪では予選から決勝まですべて一本勝ちで78キロ以下級の金メダルを獲得した。その後、2002年に国立競技場で開催された『Dynamite!』でプロ格闘家デビュー。圧倒的な寝技力と「殴られたら殴り返す」という真っ向勝負のスタイルは、ファンの熱い支持を集めていた。
一方のハントは、2000年にK-1デビュー。翌年には早くも頂点であるグランプリ王者に輝いている。破壊力抜群のパンチと打たれ強さは、猛者揃いのK-1ファイターの中でも間違いなくトップクラスだった。2004年4月にPRIDEでの試合が決まったときには、「K-1で王者になったので、次はMMAの王者を目指します」とコメントしている。
私はハントが日本で試合をするようになってから、ほとんどの試合を撮影している。試合のたびに行うスタジオ撮影でその朗らかな人柄に触れていたこともあり、思い入れの強い選手のひとりだ。キックボクシングのグローブに比べて薄く小さなオープンフィンガーグローブを付けたハント。彼の巨体と素手のようなグローブの対比は、どこかユーモラスにさえ見えた。しかし、そんな思いはすぐに消え去った。試合開始直前のハントの表情は、過去の試合では見せたことのない覚悟と誇りにあふれていた。
ハントの寝技での力量を疑問視する声もあったが、試合では経験に勝る吉田を攻め立てる場面もあり、我々の想像以上の対応力を見せた。やがてハントはMMAファイターとして成長を遂げ、UFCでもメインイベンターとして活躍。一方、吉田は腕十字で気迫の一本勝ちを収めたものの、ハントの打撃で左肩を亜脱臼した。以降のキャリアでやや精彩を欠いた理由のひとつとして、「ハント戦で肩を壊されたこと」をあげている。