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「藍は『石川祐希になりたい』とは言わなかった」男子バレー“19歳の新星”の急成長に必要だった偉大な先駆者《高橋藍ができるまで#3》
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byYuki Suenaga
posted2023/10/06 11:04
キャプテン石川祐希を中心とした日本代表で、今や欠かせないプレーヤーに成長した高橋藍(22歳)
最初は兄の塁、その後は石川という、身近な目標を全力で追いかけてきたことが驚異的な成長スピードにつながったことは高橋自身も実感している。
「常に塁を追いかけて、その次は代表で、祐希さんが尊敬できる選手であり、目標にしてきました。やっぱり常に一番近くに目指すべき選手、超えたい選手がいるというのは、僕の人生の中ですごく大きなことだったなと思います」
石川であっても、高橋にとっては「誰かにできることは、自分にもできる」の例外ではない。石川がやっているなら自分もやってみよう、という軽やかさが武器だ。
高橋が東山高校時代にコーチとして指導した松永理生(現東山高監督)はこうも言っていた。
「目標ではあったと思うんですけど、藍は『石川祐希になりたい』とは言わなかった。抜かしたいという意志がその頃からあったのかもしれないですね。いいことじゃないですか。藍が超えていったら、また石川が超えていくでしょう。2人ともずっと引退できないですね(笑)」
「祐希さんを超えていかないといけない」
高橋が迫ってきているという感覚はあるかと、石川に聞いてみた。
「迫っているという言葉はしっくりこないというか。強くなってるなとか経験値が上がってるなというふうには思います。僕が大学生の時よりも間違いなく今の彼のほうがスキルとかは高い。僕より早い年齢で1シーズン通してイタリアに行っているので。でも僕の歳になったらどうか、それはわからないです。彼が今後どういう選択をするかによってたぶん変わると思います。僕が今こういうふうに経験している間は僕も成長しているので。だから面白いというか、楽しみではありますね。彼がどういう選択をして、どういうチームでどういうプレーをして、どういう結果を残していくのか、僕は興味ありますね」
先駆者の負けん気と余裕がのぞいた。
高橋は、「祐希さんは日本代表のキャプテンで、エースで、最後の得点や大事な場面では『託したい。祐希さんなら決めてくれる』という思いになる。常に刺激をもらっている一番のお手本」とリスペクトしながらも、照準を定めている。
「祐希さんがやっていることは僕もやりたい、やっていかないといけないと思っていますし、祐希さんを超えていかないといけないという思いはあります。やっぱり祐希さんが日本のトップ選手なので、その選手に勝っていくことが、僕の強さ、成長につながっていく。それに対角を組むなら、祐希さんを超えるぐらいの力がないと、日本代表が勝っていけないと思うので」
世界を舞台にしたこの壮大で幸せな追いかけっこが続く限り、日本の進化は止まらない。
《全3回/第1回では兄が語る少年時代を、第2回では恩師が高校時代の成長記録を明かしている》