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箱根駅伝PRESSBACK NUMBER
「一年契約で、ダメなら無職」箱根10区“伝説のランナー”がそれでもJR東日本を辞め、皇學館大学の監督となった理由「奥さんに相談したら…」
text by
小堀隆司Takashi Kohori
photograph byTadashi Hosoda
posted2023/10/09 06:01
寺田夏生は現在、32歳。今年7月に皇學館大学駅伝競走部の監督に就任した寺田に話を聞いた
もし寺田さんが独身であれば、決断はより簡単だっただろう。しかし、彼には妻がいて、まだ3歳に満たない子どももいる。普通に考えれば、大企業を辞めるのはリスクが高い。陸上関係の話は、またいつか来るかもしれないのだ。
だが、寺田さんが出した答えは思いがけないものだった。
「特に、監督でしたからね。普通だったら、マネージャーとかコーチから始めて、少しずつステップアップしていくじゃないですか。でも、前田さんも『覚悟を持ってやるんだったら、俺も手伝ってやるから』と。そこは真剣な口調で、『ちゃんと考えろ』って言われたんです。前田さんももちろん、軽い気持ちで声をかけてくれたわけじゃない。それで奥さんに相談したら、『へえ、良いじゃん』って。さらに軽いノリだったのでびっくりして(笑)。僕と結婚したくらいなので、変わりもんなんですかね。僕も『じゃあ行くわ』って口に出してました」
意外にも身内からは応援されたが、上司からは当然のように反対された。まだ子どもも幼いのにどうするの。ほんと、どうするんだろう。そう思いながらも、決意はほぼ固まっていた。
学生時代はコースミスで有名に
あと一押しを求めて、監督就任要請を受ける前に、寺田さんは前田監督にも付き添ってもらって皇學館大を実際に訪れたという。大学がある伊勢市は、全日本大学駅伝のゴールがある場所だが、意外にも足を運ぶのは初めてだった。
「僕自身、全日本には出てないんです。ずっと予選落ちで終わっていて、伊勢はまったくの初めて。だから、最初にご挨拶に行ったときにそのことを話したら、びっくりされましたね。國學院も皇學館も神社関係の大学ですけど、伊勢神宮もまだ訪れたことがなかったんです」
寺田さんは長崎県出身。地元の中高を経て、國學院大に進学した。当時はまだ駅伝の強豪校とは言えず、箱根駅伝も出場できたり、できなかったり。若き前田監督が率いる同大学が初めて箱根駅伝のシード権を獲得したのが、寺田さんが1年生の時だった。