Sports Graphic Number MoreBACK NUMBER
藤井聡太15歳の発言に記者ビックリ…中学時代“いずれタイトルを独占する男“は何を語っていたのか「強くなった先にある深遠さを見ていたい」
text by
北野新太Arata Kitano
photograph byJIJI PRESS
posted2023/10/15 20:20
藤井聡太15歳のとき。いずれ将棋タイトルを独占する「天才」は当時、何を語っていたか
「もちろん多少は整理が付くようにはなってきましたけど、悔しさという点では変わったところはないです。自分として単純に悔しい気持ちが圧倒的に大きいです」
秋を迎えて復調し、再び11連勝を記録した頃、彼は真新しい革靴を新調した。まだ履き慣れないのだろう。脱ぐ際は座り込んでせっせと靴ひもをほどき、履く時は再びキュッと堅く結ぶ動作を繰り返す姿が何とも微笑ましかった。
藤井の将棋が変わった日
12月7日。羽生永世七冠が誕生した2日後、藤井は名人を目指す棋戦「順位戦」C級2組の高野智史四段との一戦に臨んだ。最下クラスのC級2組からC級1組に昇級するのは在籍50人のうち3人のみという過酷な闘争である。
藤井6勝0敗、高野5勝1敗。敗北は即、昇級戦線からの脱落を意味する一局だ。両者がともに本格的な開戦に踏み込まないまま夜戦を迎える極端な持久戦になった。
落とせない一局での藤井は老檜だった。高野が先に持ち時間を使い切り、一分将棋(一分以内に着手しないと時間切れ負けになる)に突入すると、相手に考慮時間を与えないために自らの手番をあえてノータイムで指す「時間攻め」の勝負術を用いる。さらに、あえて曲線的な指し手を選んでミスを誘発する高等技術を駆使し、勝ち切った。「勝つ将棋」から「負けない将棋」ヘのシフトこそが、経験を手にしたことによって生まれた少年の変化である。
当時も言っていた「まだまだ力が足りない」
終局後の対局室に、もう熱はなかった。感想戦を見つめていたのは3人の記者と2人のカメラマンだけだった。
「ここまで結果を残すことが出来たので、順位戦の残り3戦もベストを尽くして戦いたいです」
2日前の羽生の偉業について聞いた。
「永世七冠は歴史的瞬間なので言葉だけでは表し切れないです。棋士として1年、羽生先生の将棋を見させていただきましたけど本当にすごい。自分にはまだまだ力が足りないと思います」
羽生は達成後の会見で藤井とタイトルを争う可能性について「私自身が頑張り切ることができれば実現できるのではないかと思います」と語っている。
「羽生先生にそう言っていただけるのは嬉しいですけど、舞台に立つにはまだ自分の実力が追いついていないです」
身支度を整え、藤井は対局室を出た。下駄箱から取り出したのは革靴……ではなく、真新しいスニーカーだった。オールブラックに2本のラインが入ったパトリックのシューズは、やはり15歳によく似合っていた。
まだ彼は中学3年生なのだ。「スーツにスニーカー」が似合わなくなるまで、あと何年かの猶予はあるだろう。