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「俺たちは石川祐希や高橋藍のスパイクを受けている」日本が誇る2人のリベロ・山本智大&小川智大が“世界一”を自負する理由〈男子バレー〉
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuki Suenaga
posted2023/10/04 11:20
リベロという1つのポジションを争う山本智大(28歳)と小川智大(27歳)。互いに認め合い、ライバルを超えた特別な関係を築いている
「試合前から相手のオポジットは『ディープ(深め)に打ってくることが多いから』と言われていたんですけど、想定していたよりももっと浅い位置に打ってきた。それでも打球が速ければトモさん(山本)だったら上がるんです。でもボール自体の回転も汚いし、きれいに飛んでこない。そういうボールって逆に難しいんです」(小川)
コートの外から見える情報を小川は山本に伝え、山本も小川に聞く。
「今のどうなってた? 浅い?」
「データより全然浅い。もう少し、ブロックの位置を締めてもらおうか?」
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会話自体はいたってシンプル。だがそこに含まれた深い意味は、2人だからこそ分かり合えるもの、と小川は言う。
「もともと僕はトモさんの映像を普段からめっちゃ見るので、わからないことは全部その都度聞くし、トモさんも教えてくれる。言葉にすると大したことは言っていないんですけど、トモさんにはわかるし、僕にもわかるものがある。他の人には絶対理解できないと思いますね」
どちらが出ても遜色ない。同じポジションである以上ライバルでもあるが、ライバルを超えた仲間で、特別な存在。絶品のスキルを持つ2人だけの関係性が築かれている。
「俺たちが世界一だ」と自負する理由
ストレート勝ちを収めたチュニジア戦後、フィリップ・ブラン監督は今大会初めて起用した小川に対し、「とてもいいプレーをした」と称えた。強豪との連戦が始まる前に「日本には山本だけじゃなく、小川もいる」と改めて世界に示せることができた。
世界で5本の指に入る――そんな評価を本人たちはどう感じているだろうか。
世界を見渡せばすごいリベロもうまいリベロもたくさんいる。だが、ネーションズリーグでベストディガーにもなった山本はさることながら、出場機会が少ない小川も「俺たちが世界一だ」と自負する。そこにはそう言い切れる理由があった。
「だってこの代表、日本のAチームはすさまじく強いので。僕はBチームに入ることが多いですけど、そこで祐希さんや藍のスパイクを受けている。(練習で)上げられたら世界中、他の誰が打つスパイクでも上がる。それぐらい普段から強い相手と練習していますから」
やるべきプレーをしてつかんだ1勝。何より、待望の出番が巡ってきた直後に上げた1本は、小川にとっても新たな自信につながった。
「(4日の)トルコ、(6日の)セルビアに勝てたら、(残り2戦の)スロベニア、アメリカ戦は気持ちも乗るし、上がっていくだけ。1つ1つが大事なので。僕も、めっちゃ準備します」
トルコ戦の前も、日本が誇る2人の守護神が交わすだろう言葉はいつも通り。きっと変わらずシンプルだ。
「今日の試合どうなるかな?」
「普通にやれば、大丈夫でしょ」
残り4戦。2人で、リベロの矜持を見せつける。