コベルコ神戸スティーラーズ広報の近藤洋至氏がキックに関するこんなエピソードを教えてくれた。

「彼はチーム練習が終わったあとに毎回、1人で残ってキックの練習をするんです。これは加入してから一度も休んだことない。いろんな角度から蹴るのですが、すべて入れるまで終わらないと決めています」

　キックとゴールへのこだわりと執着心はこうした練習にも現れている。

　今では日本代表のスタンドオフとして10番を背負い、かつて田村優や五郎丸歩が担ってきた重要なキッカーを任され、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチも22歳の若き司令塔に厚い信頼を寄せる。それはなぜなのか――。

　彼の人生の転機には、“迷わずゴールを狙う”ような意志の強さが見え隠れする。

2022年　©︎Kiichi Matsumoto

帝京大を中退「一度決めたら変えない」

　承信のラグビー人生において、大きな転機の一つは、ラグビーの名門・帝京大学ラグビー部を2年時に辞めたことだろう。リーグワンでのプレーを考えれば、大学を辞めるという選択肢は、通常であれば“想定外”だ。

　父・東慶さんが当時を振り返る。

「次兄の承爀が帝京大学ラグビー部にいたことも進学の理由ですが、2年の時に辞めるというから、そりゃビックリしましたよ。私は『辞めてどうするんや』とこの時ばかりは怒りました。それにもし妻が生きていたら、なんて言っていたんだろうってね……。妻がよく『承信はあまのじゃく』って言っていたのを思い出します。辞めるなって言ったら、その逆を選択する。大学に進学するときも2択でしたが、アドバイスとは真逆の選択をしましたからね」

　一度、自分がこうと決めたことについては曲げない性格。東慶さんは「ここは母譲りの性格」と笑うが、もう一つ、帝京大学を辞める時のこんなエピソードを教えてくれた。

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