スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「これはマズい」「もはや恐怖」おにぎり1個800円…ラグビーW杯、フランス現地記者がトラウマになった“おにぎり事件”「最後にパリで感動する話」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2023/09/25 17:10
ラグビーW杯日本対イングランド戦が行われたニース。海岸も街並みも美しかった。“おにぎり事件”はこの街を出発したあとに起きた
そしてわれわれは、おにぎりを取り出す。おお、包装をはがしていくプロセスは日本と同じではないか。まず、三角形の頂点からビニールを割く。そして左右を引っ張ると、おにぎりが登場する。食べた。
まずい。
これは、まずい。
だいぶ、まずい。
見ると、Mくんのあごの動きが止まっている。私もだ。
このおにぎりの問題は、具の部分が酸っぱすぎて、食べられたものではないことだ。ハッキリ言って、酢を食べさせられているようなのだ。
なんとか、「酸っぱいね」と話すと、それから二人とも固まってしまった。しかし、食べ始めたものを途中でやめるわけにはいかない。取材部隊は、「酢でしかない」と思われるものを胃袋に落下させるしかなかった。
なぜ、こんな味になってしまうのか?
食べ終えて、Mくんが言った。
「SONiGiRiって書いてありましたけど、これは“すにぎり”ですね」
それから、私たちはフランスの土地でおにぎりにとりつかれてしまった。
なぜ、こんな味になってしまうのか?
そしてなぜ、こんなにも高いのか?
人間、特定のものに意識が向かうと、不思議なことにどんどん情報が入ってくる。
友人であり、かつてフランスのクラブでプロサッカー選手として活躍していたMさんは、ニースで5.90ユーロのおにぎりを目撃し、それをFacebookに投稿していた。
「もはや恐怖です」
そして写真部員Mくんは、21日木曜日にマルセイユに出張に行き、22日はパリへと上京した。パリのリヨン駅に到着したMくんから、さっそくおにぎりの写真が送られてきた。
「日本語表記ありのおにぎり、シャキシャキがありました」
どうやら商品名が「SHAKI SHAKI ONIGIRI」のようだ。Mくんの報告では3.90ユーロ、送られてきた味の展開は「鳥の照り焼き」と、「サーモンクリームチーズ」。
サーモンクリームチーズ! 未到の味わいである。そしてLINEには、こう記されてあった。
「試す勇気が出ないです。もはや恐怖です」
それほど、マルセイユのおにぎりは、私たちの味覚にトラウマを残してしまったのだ。
「めちゃくちゃホンモノでした」
しかし、Mくんは見事リベンジを果たすことになる。
生まれて初めて花の都パリに上ったMくんは、凱旋門を観光したあと、さる信頼できる情報筋からもたらされた情報の確認に向かった。
パリには、日本と同等の極上のおにぎりがある――。