スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
「これはマズい」「もはや恐怖」おにぎり1個800円…ラグビーW杯、フランス現地記者がトラウマになった“おにぎり事件”「最後にパリで感動する話」
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2023/09/25 17:10
ラグビーW杯日本対イングランド戦が行われたニース。海岸も街並みも美しかった。“おにぎり事件”はこの街を出発したあとに起きた
さて、2時間ちょっと乗ると、マルセイユでの乗り換えである。わずか4日前、取材部隊が「地べたの二人」と化した因縁の土地である(※前回参照)。
フランスでは乗り継ぎ時間、かなりの余裕を見なければならないことを学んだ。少なくとも30分は取った方が安全だ。14時33分に到着し(到着時はやっぱり遅れた)、15時27分にトゥールーズに向けて列車に乗る。
私は重めのブランチを食べていたので、Mくんと軽食を摂ることにした。前回はCarl’s Jr.のハンバーガーだったが、今回は趣向を変えよう。
ADVERTISEMENT
そんなわれわれの視界に入ってきたのは、コンビニ的なお店に陳列されたおにぎりだった。
嗚呼! 異国の地でおにぎりに出会えるとは!
「1個800円じゃないか!!」
「前回は、どうして気づかなかったんですかね」と、Mくんも感慨深げである。商品名は「SONiGiRi」。ラインナップは4種類だった。
THON MAYO WASABI(まぐろのマヨネーズ和え。ワサビを利かせて)
SURIMI AVACODO SPICY(魚のすり身、アボカド和え。スパイシーな味わいで)
POULET YAKITORI(焼き鳥)
ŒUF MAYO EDAMAME(玉子のマヨネーズ和え。枝豆を加えて)
私たちは買う気満々だ。
ところが、値段を見てたまげた。
4.90ユーロ! 800円じゃないか!!
フランスで2週間過ごしてみて分かったのは、ランチの価格平均は12ユーロということだ。これは高い云々というより、南仏ではこれが相場だということを肌で感じつつあった。これを日本円に計算するのは、もはや野暮になってきている。そういうものであり、それがヨーロッパの価格と思って生活するしかない。
そう考えると、ここでおにぎり2個を買っても10ユーロにしかならないわけだが……。日本に生まれて56年、おにぎりに800円を払うのは気が引けるのである。それでも……やっぱりおにぎりが食べたい! ということで、私は「まぐろのマヨネーズ和え。ワサビを利かせて」を選び、Mくんはおそらくは照り焼き風味であろう焼き鳥を選び、意気揚々と列車に乗り込んだ。
「これは、まずい」
しかし、慌ててはいけない。列車でごはんを食べるのは、動き始めてからでなくてはならない。3分遅れで発車した列車は(Mくんは「これは遅延には入りませんね」とストライクゾーンが広くなっていた。だいぶ、フランスに感化されているようだ)、静かにトゥールーズを目指す。