猛牛のささやきBACK NUMBER
「いっつもしんどいですよ。本当に」中嶋聡監督の手腕に見たオリックス“3年目の進化”…やりくり上手な「令和の名将」が鉄仮面に隠す愛情と確信
text by
米虫紀子Noriko Yonemushi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/09/22 11:06
その手腕でオリックスを3連覇に導いた中嶋監督。見据える先は黄金時代だ
プロ4年目・紅林が抱いた危機感
開幕ショートは野口がつかんだ。
「うわ、もう使われる立場ではなくなったんだな。自分で勝ち取っていかないといけないんだ」
そう危機感を抱いた紅林は、死に物狂いで打撃を磨いて這い上がり、ポジションを取り戻した。
杉本に告げた「もがいてこい」
選手会長を務める杉本も、不振に苦しみ、8月、中嶋監督に「今のままじゃ無理やから、もがいてこい」と二軍降格を告げられた。
だがそれが好機になったと杉本は振り返る。
「あのまま一軍にいたら、たぶん兆しがないままずっと行っていたような気がします。1回ファームに落ちて、自分を見つめ直す時間をもらえたことは僕にとって大きかった。一軍だとどうしても、結果を出したいと思いすぎちゃう。もちろん二軍でも、結果を出さないと一軍には上がれないんですけど、すぐには打てなくても、自分が試したいことを試せるので。まっすぐを待ちながら変化球を泳いで打つ練習をしたり、逆に変化球を待ちながらまっすぐを打ったり、追い込まれてからの対応の仕方も、いろいろ試すことができました」
9月5日に昇格すると、9日の試合で3点本塁打を放ちエース・山本由伸のノーヒットノーランを後押しするなど、チームに勢いをつける打撃を続けた。
17日からは本拠地・京セラドーム大阪で3日続けてお立ち台に上がる活躍。マジック「2」で迎えた20日の2位ロッテとの直接対決では、0-2とビハインドだった7回裏2死二塁の場面で、杉本がセンター前ヒットを放ち1点を返すと、3万5619人の観客で埋まった球場は地鳴りのような歓声に包まれ、流れは一変した。
7番・T-岡田が四球でつなぐと、次打者の紅林が打席でフーッと息を吐く。153kmのストレートに食らいついてライト前に弾き返し、杉本がホームに滑り込んで2-2の同点とすると、中嶋監督はベンチでガッツポーズ。この回一挙6得点の猛攻でロッテを飲み込み、優勝を決定づけた。
競争の中を這い上がってきた選手はしぶとさを増していた。