フリック自身は「メディアの報じているものは目にしていない」と話していたが、メディアからの批判的な論調は日増しになっており、とても無視することができないくらいに膨れ上がっていた。

ドイツにはルディ・フェラーがいた

　光の見えない暗闇をずっと歩いているような感覚さえあったであろうドイツサッカー界にとって幸運だったのは、ルディ・フェラーがいたことだろう。フェラーはドイツサッカーの歴史において最もファンに愛された選手であり、人物だ。ドイツ人ならおそらく誰もが知っている人気ソングに「Es gibt nur ein Rudi Völler（ルディ・フェラーただひとり）」がある。「フェラーならきっと！」という気にさせてくれる雰囲気を持っているし、苦しい時にいつでも嫌な顔をせずに力となるその気概を、ドイツのサッカーファンは心から愛している。2000年欧州選手権でグループリーグ敗退を喫してどん底状態だったドイツ代表を監督として率い、02年日韓W杯で決勝進出まで果たしたのは大きな驚きだった。

現役時代、1990年W杯で西ドイツで優勝を経験してきたフェラー。ちなみに肩車をしているのはユルゲン・クリンスマン（現在は韓国代表監督）。前出のマテウスがキャプテンだった　©Sven Simon/ullstein bild/JIJI PRESS

代表監督としてカーンらとともに準優勝を経験したフェラー　©AFP=JIJI PRESS

　果たしてフェラーはドイツ代表を解放することができるのか。日本代表戦から3日後、対戦相手は22年W杯準優勝国のフランスだった。かつてマルセイユ時代にチームメイトだったフランス代表監督ディディエ・デシャンとがっしりとした握手を交わして試合に臨んだフェラー。キリアン・ムバッペとオリビエ・ジルーは出場しなかったとはいえ、フランス代表は素晴らしいクオリティをピッチにそろえていた。

暫定監督が意識したこと

　今回、代表を指揮したのはフェラー含め3人。フェラーたっての希望でコーチとして加わったU20ドイツ代表監督ハネス・ヴォルフ、元ドイツ代表FWでU20コーチのサンドロ・ワーグナーとの共同作業だった。しかし、3人ができることはそう多くはない。フリック解任からわずか数日なのだ。

　上手くいかないとき、迷子になった時こそ、やはり原点に立ち返るのが一番だ。慣れ親しんだ4－2－3－1システムからシンプルな戦術とキーワードでこの試合に挑んだ。

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