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落馬事故で絶たれたジョッキーの夢…元騎手見習いがそれ以上に後悔する“競馬学校での苦い記憶”「同じ夢を追う仲間に大怪我を…」
text by
松下慎平Shimpei Matsushita
photograph byGetty Images
posted2023/09/09 17:02
最悪の場合、死に至ることもある落馬事故。元騎手見習いの芸人・松下慎平が体験した「落馬の痛みと恐怖」とは
落馬による負傷で絶たれた騎手としての夢
そしていよいよ、「落馬」についてである。これはレースに乗る騎手だけではなく、調教や育成で競走馬に跨る全てのホースマンにとって一番の危険だと言える。サラブレッドのトップスピードは時速60km以上。体高は2m近くもある。これだけでも、「落ちたら危ない」というのは誰にでも理解できるだろう。
また、一口に「落馬」と言ってもその落ち方は様々で、馬のアクション一つで前後左右どこに落ちるかもわからない上に、後続に馬がいた場合には危険度は跳ね上がる。私自身は幸か不幸か、正規のレースに乗ることなくドロップアウトしたため、レース中の落馬経験はない。しかし、トップスピードの馬からは何度も落ちた。
そのうちの1回が「人馬転」と言われるもので、馬が様々な要因で転倒し、乗り手も落馬するというケースなのだが、これは危険性が非常に高く、馬の前方に乗り手の体が投げ出されることが多い。落馬した人の上を、500kgにも及ぶ馬が転がっていくケースもある。実際、私もこの人馬転によって騎手見習いの身で膝を負傷し、あと一歩のところで騎手としての夢を諦める形となった。
では、この落馬を一番後悔しているのか、と言われるとそうではない。直接的な痛みという点では最上級かもしれないが、実際に落ちたときは何が起こったかわからず、気がついたら芝の上で大の字になっていた。転倒した馬がすぐに立ち上がり、私に見向きもせず元気に走り去っていく姿をみて、「馬が無事ならよかった……」と安堵した記憶がある。
馬に乗る以上、落馬の危険性というものは誰しもが覚悟の上だ。凄惨な事故が過去に何度もあったことを知らずに、馬に跨っている人間というのは業界内にはいないだろう。そのため、落馬で自分が怪我をしてしまうことに関しては、ある程度までは「仕方がないもの」として受け入れているホースマンが多い。私自身もそうであった。だから、この落馬に関しても、暗い感情はあまりない。「なるようになってしまった」というだけの話として、個人的には受け止めている。