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武豊が「一緒に乗れるのは感慨深い」全盛期27歳で落馬事故、左目を失った“高知の隻眼ジョッキー”がJRAの大舞台に立った夏
text by
井上オークスOaks Inoue
photograph byOaks Inoue
posted2023/09/10 17:01
8月下旬、札幌競馬場で再会を果たした武豊と宮川実(高知)。じつは同じ時期にケガからの復帰を目指していた繋がりがあった
「豊さんは『実は大丈夫か?』って、ずっと心配してくれていました」
数え切れぬほど繰り返した、顔面の整復手術。変化した視野に慣れていくこと。誰にも言えない恐怖心。宮川騎手は苦しみながらもへこたれず、あの落馬事故から13カ月後、レースに帰って来た。
武豊から復帰祝いのメッセージ
2010年5月29日、高知競馬場。この日は復帰を祝う協賛レースがずらりと並んだ。出馬表には、仲間達のあたたかいメッセージが添えられた。当時、落馬負傷してリハビリに励んでいた武騎手からもメッセージが届いた。
「復帰おめでとう!! 次、俺やで(笑)。また一緒に乗りましょう!」
月日は流れて……。宮川騎手は昨年、初めて高知競馬のリーディングジョッキーに輝いた。勝率は2年連続で全国1位。通算2000勝を突破。今年は全国のリーディングジョッキーが集結する佐々木竹見カップと地方競馬ジョッキーズチャンピオンシップを優勝。後者を制したことで、WASJの地方競馬代表騎手の座をつかんだ。一度は絶望の淵に沈んだ男が、世界の舞台で武騎手と“一緒に乗る”日が来るなんて。
名手も想像できない片目のハンデ
片方の目が見えない状態でジョッキーを続ける宮川騎手を、武騎手はどう感じているのだろう。
「ちょっと想像できないですね。ハンディキャップになるところは当然あると思うんですけど、それでも互角にやっている。もともと馬乗りに関してはすごいセンスの持ち主だと思うし、仕事に対してもすごく真面目ですよね」
武騎手はWASJの第2戦を鮮やかに差し切り勝ち。総合3位の表彰台で、「ワールド”オールド”スターの面目は保てたかな?」と言って笑いをとった。おそるべき54歳。
宮川騎手のWASJは、14着、10着、5着、11着。第3戦ではスタートで躓きながらも逃げを打って5着に粘った。
絶対もう一度乗りに来たい
「スタートして、そこからの流れに乗せるのが難しいなと感じました。特に、芝のレースで馬を気分よく走らせるのは難しいなと実感しています。応援してくれたみなさんに謝るしかないですね。『優勝します』とか、すごく大きなこと言ってたのに」