競馬PRESSBACK NUMBER
武豊が「一緒に乗れるのは感慨深い」全盛期27歳で落馬事故、左目を失った“高知の隻眼ジョッキー”がJRAの大舞台に立った夏
posted2023/09/10 17:01
text by
井上オークスOaks Inoue
photograph by
Oaks Inoue
8月26、27日の2日間、札幌競馬場で「ワールドオールスタージョッキーズ(WASJ)」が開催された。国内外の凄腕がしのぎを削る名手の祭典。昨年に続き、連覇を目指す武豊騎手は、レースの合間にしみじみ言った。
「実と一緒に乗ることができるのは、やっぱり嬉しいです。怪我をしたときはジョッキーを続けられるかどうか、わからない状態だったわけですからね。大変なことを乗り越えて復帰して、高知で頑張って結果を出して。自分も出ることができて、ワールドオールスターに一緒に乗れるっていうのは、感慨深いものがありますね」
武豊と宮川実との交流秘話
武騎手が語った「実」とは高知の宮川実騎手のこと。2人の交流のはじまりは2009年4月にさかのぼる。同僚の赤岡修次騎手が、高知から大井競馬場へ遠征した夜に、武騎手から食事に誘われた。赤岡騎手は夢見心地で会話をかわし、ほどなくうちとけて、とうとう朝まで飲み明かした。
数日後、たまたま京都へ旅行に出かけた高知ジョッキーズは赤岡騎手を介して、京都在住の武騎手となかよしになった。宮川騎手も、優しくてフレンドリーなスーパースターとの交流に胸を弾ませた。
全盛期27歳の若武者を襲った落馬事故
宮川騎手は“10年にひとりの逸材”と言われた若手のホープ。1999年にデビューし、天性のバランス感覚を武器に、めきめきと腕を上げていた。非常に研究熱心で、レースを終えて馬を降りるや、駆け足で検量所に飛び込み、モニターを見つめてリプレイ映像を確認する。27歳の若者はレースに乗るのが楽しくてしょうがなかったし、周囲の人々も「赤岡の次にリーディングを獲るのは実だ」と思っていた。