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古くて新しい「パワーあり過ぎ問題」…加藤大治郎、原田哲也が駆ったホンダNSR500も陥った速いエンジンの罠
text by
遠藤智Satoshi Endo
photograph bySatoshi Endo
posted2023/08/29 11:01
コレクションホールに展示された、2002年に加藤大治郎が乗ったNSR500
ホンダコレクションホールに行くと馬力がありすぎたための失敗作があり、この問題はいまに始まったことではないと思い出すことができる。例えば加藤大治郎、そして原田哲也が2002年のシーズン前半に乗った2ストローク500ccマシン「NSR500」は、パワーがありすぎて、リアにトラクションがかからずスピニングに大苦戦した代表的なマシンである。
この年は4ストローク1000ccのMotoGPマシンが登場したシーズンで、それに対抗するために2ストローク500ccマシンは「もっとパワーを」というシーズンだったが、250ccクラスでチャンピオン争いを繰り広げ、同時にホンダの500ccマシンに乗った2人のデビュー戦は悲惨そのものだった。雨になった日本GPで2人は、ともに周回遅れ。大ちゃん10位、哲ちゃん11位という信じられない結果で、2人とも「スピニングがひどくてまともに走れなかった」というじゃじゃ馬マシンに手を焼いた。同じくNSR500に乗ったロリス・カピロッシも周回遅れに終わっている。
この時代の2ストロークエンジンは制御が難しく、4ストロークエンジンのマシンに対抗するために「最高に馬力を狙った」マシンだったが、結果的にドライコンディションでもセッティングが難しく、ウエットではまともに走れない代物だった。
まだ見えぬ来季のマシン
シーズンは早くも折り返し点を迎え、ライダーたちはすでに来季に向け動き始めている。今季、ホンダで唯一優勝しているアレックス・リンスが、来季はヤマハに移籍。そして、ドゥカティ勢で安定した走りを見せているヨハン・ザルコが、リンスの代わりにLCRホンダへ移籍すると決まった。中上の来季継続も確実となっており、ホンダ陣営のラインナップはこれで固まった。
マルケスとミル、2人の世界チャンピオンの契約は来季まであるが、これまで何度も移籍が話題に上った。低迷によりホンダの求心力は大幅に低下している。そんな状況でライダー多めのドゥカティ陣営からこぼれたザルコを獲得できたのは、復活を目指すホンダにとって明るい話題となった。
現在のMotoGPクラスでは、レギュレーションによりシーズン中のエンジン開発は禁止。エアロパーツもシーズン中1回のアップデートが認められるのみで、自由に開発できるのは車体関係とマフラーなどの排気系だけ。現行ルールの中でやり尽くした感のあるホンダは、来季に向け、根本から見直したマシンの開発をスタートさせているだろう。そのマシンが将来、ホンダコレクションホールに展示される日が来ることを願うばかりである。