- #1
- #2
甲子園の風BACK NUMBER
敗者が笑った甲子園伝説の決勝「なぜボールを見失った?」球史に残る“19分間の猛反撃”にのまれたプロ注目野手の悔い「14年前の映像は…まだ」
text by
沢井史Fumi Sawai
photograph byKYODO
posted2023/08/18 11:03
2009年夏の甲子園「プロ注目の打者」と期待を集めた中京大中京・河合完治。堂林翔太(広島)らと全国制覇を達成した
第91回全国高等学校野球選手権大会。決勝戦に駒を進めた優勝候補の一角を担った中京大中京は、快進撃を続ける新潟・日本文理を迎えていた。
新潟県勢の初優勝か、はたまた43年ぶりの優勝を狙う古豪の復活か――4万7000人の観衆で膨らんだ甲子園のスタンドは、試合開始前から熱気に包まれていた。
日本文理のエース右腕・伊藤直輝(現・ヤマハ野球部マネージャー)は準決勝までの4試合を1人で投げ抜いてきた。そんな疲労の残る右腕を中京大中京打線は初回から容赦なく攻めた。幸先よく2点を先制すると、序盤のうちに同点にされながらも毎回のように走者を出し、6回裏に一挙6点を奪って8-2と大きくリードした。一方、日本文理の反撃は7、8回の1点ずつ。9回表の時点で10-4、勝負は決したかに思われた。
9回2アウトから…19分間の反撃
9回表のマウンドには、この日先発で途中からライトの守備についていた大黒柱の堂林が上がった。下位打線を簡単に仕留めて2アウトを取ると、中京大中京の三塁側のアルプスは日本一を確信して大きく沸いた。
だが、日本文理の1番・切手孝太に四球を与えると、2番・高橋隼之介が左中間を破る二塁打、3番・武石光司のライト線を破る三塁打で、立て続けに2点を奪われて10-6。2死三塁の場面でこの日、二塁打を放っていた4番・吉田雅俊を迎える。ここから空気はさらに一変する。
独特の緊張感の中、堂林が投じた2球目を打ち損なった吉田の打球は三塁方向にふわっと上がった。
このボールを捕れば、試合は終わる。河合は“最後の1球”となるはずだったファウルボールを追いかけた。