伊藤、石塚のタイムリーで6点もあったリードは1点差にまで詰め寄られた。三塁ランナーの伊藤が帰れば同点。次打者は、この回で先頭バッターの捕手・若林尚希だった。

　完全にスタンド全体が劇的な逆転劇を望む中、若林は森本の2球目を強打する。ライナー性のボールはまたもサードの河合のもとへ。

「あんな大きなミスをしたのに、最後の打球は僕が捕るっていうのがね（笑）。最後の打球が僕のところに飛んでくるのは、野球の神様は本当にいるんだなと思った瞬間でした。（日本文理に）追われることのつらさより、ひとつのミスでとんでもないことが起きてしまう恐怖を味わった試合でした」

　打球が河合のグラブに吸い込まれた瞬間、9回2死走者なしからの「19分間の猛反撃」に終止符が打たれ、中京大中京の7度目の全国制覇が決まった。

敗者が笑い、勝者が泣く

　喜びを爆発させるはずの中京大中京ナインが号泣し、最後に敗れた日本文理ナインが笑顔をはじけさせる。試合後、涙と笑顔が交錯する聖地にはいつもとは異なる景色が広がっていた。

「校歌を歌っている時から目は潤んでいましたし、アルプスに挨拶に行った時はもう涙が出ていました。チームで泣いたのは確か僕が最初だったような気がします」

　挨拶を終え、ベンチ前に戻ると、河合は大藤敏行監督（現・享栄高監督）に「すいませんでした」と、頭を下げた。勝利した、いや日本一になった直後に最初に発する言葉ではない。

「僕はまず（ゲームセットになって）ホッとしたのが最初でした。正直、本当に負けちゃうんじゃないかと思っていたので」

　河合が日本一の喜びを噛みしめることができたのは、ずいぶんと後のことだった。

（つづく）

◆後編では、野球の恐怖を思い知った河合選手の“その後”に迫りました。

#2に続く

「負けたら、野球を辞めていた」甲子園決勝でミスをした球児から漏れた衝撃的な言葉…全国制覇した“中京大中京の最高傑作”のその後

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