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ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
10年前、若き井上尚弥に敗れたボクサーは何を手にしたのか? 佐野友樹が明かす“今は亡き恩師の言葉”「めったに人をほめない金城監督が…」
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byNumber Web
posted2023/07/24 11:04
2013年に井上尚弥のプロ3戦目の相手を務めた佐野友樹さん。健闘及ばず10回TKO負けを喫したが、試合後には想定外の反響が寄せられた
厳しい恩師が口にした「称賛の言葉」とは
あれから10年――。“怪物”はモンスターとなり、さらなる高みを目指して、だれも足を踏み入れたことのない世界へと突き進む。かつて拳を交えたボクサーとして、佐野さんが誇らしい気持ちになるのは当然だろう。
「僕と井上選手の試合を見てボクシングを始めた、という人もいました。もし僕が1、2ラウンドで負けていたら、きっとそうはならなかった。ボクシングというのは、チャンピオンでも忘れられる世界です。でも井上選手と戦って、最後まで食らいつくことができたからこそ、チャンピオンになれなかった自分が今でもこうして取材してもらって、話ができる。ありがたいことですよね」
沖縄尚学高の金城監督が亡くなる前に、沖縄まで恩師に会いに行ったときのことは今でも記憶に残っている。
「会話の流れで、井上戦の話になったんですよ。監督から『お前、あれは良かったよ。よくがんばった。あんな選手に、あんな戦いはできない』って言ってもらいました。金城監督、めったに人をほめないんですよ。あれは本当にうれしかったですね」
相手が井上だったからこそ、見るものの心を打った。めったに人をほめない名伯楽も、思わず称賛の言葉を口にした。井上戦は佐野さんの“誇り”になった。そして井上にとっても、しぶといベテランと拳を交えた若き日の経験は、現在のモンスターを形作るかけがえのない財産となったのである。
<前編から続く>
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