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井上尚弥20歳の衝撃「こんな動きするやつがおるんか…」 “怪物に敗れた男”佐野友樹が語る10年前の激闘「挑発しても、まったく動じない」
posted2023/07/24 11:03
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
AFLO SPORT
若き井上と拳を交えた佐野さんは、その後の活躍をどんな思いで見つめているのか。ビッグマッチを前に、“怪物に敗れた男”に話を聞いた。(全2回の1回目/後編へ)
「あんなパンチを打つ選手を見たことがなかった」
佐野友樹さんが井上尚弥と対戦したのは2013年4月16日の後楽園ホール。ちょうど10年前の話になる。現在、名古屋市内で納棺師として働き、古巣の松田ジムでトレーナーも務める佐野さんは、井上戦のオファーを受けたときの心境を次のように語った。
「うれしくもあり、怖くもありましたね。うれしいというのは、やっぱりボクサーとして強い選手と試合をしたいという気持ちがあるから。怖いというのは、あんなパンチを打つ選手を見たことがなかったから。避けながらカウンターの左フックを合わせるとか。こんな動きするやつがおるんか、と……。もし1、2ラウンドで倒されて、担架で退場でもしたら一生言われますからね(笑)」
井上は高校を卒業した年の2012年10月にプロデビューを果たして2連続KO勝ち。キャッチフレーズは“怪物”だった。一方、当時の佐野さんは日本ライトフライ級1位。井上にとってプロで初めて対戦する日本人選手であり、“怪物”の実力をはかる格好の相手とされた。試合はフジテレビでゴールデンタイムに全国中継。もちろん主役は井上、佐野さんは“引き立て役”である。
とはいえ、佐野さんがのちに「強くなるとは思っていたけど、ここまでの存在になるなんて思っていなかった」というように、井上は才能あふれるスーパーホープとはいえ、この時点ではまだデビューしたばかりの20歳だ。キャリアは浅く、現在のように無敵の印象が定着していたわけではない。佐野さん自身、相手の才能を認めつつも勝機はあると感じていた。
「あのときは井岡(一翔)選手とか宮崎(亮)選手、高山(勝成)選手にスパーリングをお願いしていました。井岡選手の八重樫戦(2012年6月のミニマム級2団体統一戦)前にも、僕が井岡選手のパートナーを務めて2週間、毎日8ラウンドやらせてもらいました。あれだけ強い選手と普通にやっていましたから、それなりに自信はあったんですよ」