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ボクシング拳坤一擲BACK NUMBER
10年前、若き井上尚弥に敗れたボクサーは何を手にしたのか? 佐野友樹が明かす“今は亡き恩師の言葉”「めったに人をほめない金城監督が…」
posted2023/07/24 11:04
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph by
Number Web
前バンタム級4団体統一王者の井上尚弥(大橋)が階級を上げ、WBC・WBO世界スーパーバンタム級王者のスティーブン・フルトン(米)に挑戦する7月25日の世界タイトルマッチが目前に迫った。この試合を特別な思いで見守るのが、10年前に井上のデビュー3戦目の相手を務めた元日本ライトフライ級1位の佐野友樹さんだ。
若き井上と拳を交えた佐野さんは、その後の活躍をどんな思いで見つめているのか。ビッグマッチを前に、“怪物に敗れた男”に話を聞いた。(全2回の2回目/前編へ)
若き井上と拳を交えた佐野さんは、その後の活躍をどんな思いで見つめているのか。ビッグマッチを前に、“怪物に敗れた男”に話を聞いた。(全2回の2回目/前編へ)
薬師寺vs.辰吉をリングサイドで目撃した中学時代
2013年4月16日。佐野友樹さんは20歳だった井上尚弥のデビュー3戦目の相手を務め、10回TKO負けを喫した。だが試合後、佐野さんは思わぬ体験をすることになる。圧倒的不利を伝えられる中で最終回まで戦った31歳のベテランの姿に、胸を打たれた人たちが数多くいたのだ。
「普通、負けたら何も注目されないですよね。それがあのときはメールも来たし、ジムに手紙も来ました。『感動しました』とか『泣きました』とか……。ボクシングをあまり見たことのない人からのものが多かったですね。自分も小学校5年生のとき、だれの試合か覚えていないんですけど、負けているけどものすごくがんばっている選手の姿に心を動かされて、ボクシングを始めたんです。チャンピオンがかっこいいから、という理由じゃなかった。井上選手とは、そういう試合ができたのかなと」
アマチュアで輝かしい実績を残したスーパーホープの井上とは対照的に、佐野さんに対しては「叩き上げの苦労人」というイメージを抱きがちだが、実際は違う。佐野さんがボクシングを始めたのは、井上と同じ小学生のときだった。
中学生になった1994年12月4日には、松田ジムの先輩である薬師寺保栄と辰吉丈一郎の“伝説の一戦”をリングにへばりついて観ることができた。「何があっても毎日ジムに通った」という熱心な佐野さんを可愛がっていた松田鉱二会長が、パンチの数をカウントしてテレビ局に伝える役を佐野さんに与えたからだった。