「異次元だなと。もう理解できない」ドネア戦の衝撃

　引退後は納棺師の職に就き、松田ジムでトレーナーを始めた。井上の活躍ぶりはいつも気にしていた。田口良一に善戦を許した日本タイトルマッチは「ライトフライ級（リミット48.9kg）での減量がきつかったのでは。僕との試合は50kg契約でしたから」と感じた。一方、スーパーフライ級の河野公平戦は苦戦すると見ていたが、「変則でスタミナがあって、ガッツもある河野選手があんなヤバい倒れ方をするなんて……」と驚かされた。

　2022年6月のノニト・ドネアとの2度目の対戦にも衝撃を受けた。佐野さんは苦笑まじりにこう振り返る。

「あの第1戦があったので、第2戦はどうなるかと思ったんですけどね。あんな倒し方をして勝つなんて……。異次元だなと思いました。もう理解できないですよ」

2022年6月7日、ノニト・ドネアとの再戦で2回TKO勝ちを収めた井上尚弥　©Takuya Sugiyama

　そして今回のスティーブン・フルトン戦だ。4階級制覇を狙うこの一戦の予想を尋ねると、佐野さんは「僕なんかが彼の活躍を語るレベルじゃないです」と前置きしながら、次のような見立てを語ってくれた。

「想像がつかないですけど、階級を上げて、相手は無敗の王者。普通なら『どっちが勝ったか分からない』みたいな競った試合になると思うんです。フルトンってスピードがあるし、逃げるのもうまいし、すごくクリンチするじゃないですか。この前のポール・バトラーみたいに、世界トップクラスの選手が逃げ回ったら倒せないですよ、普通は。でも、井上選手ですよ。減量が苦しくなくなって、パワーがついて、きっと調子もいいじゃないですか。フルトンは意外とカバーが甘いですから。（井上の強打が）当たっちゃうと思うんですよね……」

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