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JリーグPRESSBACK NUMBER
「川崎から自転車で来たんですよ」「この台風の中で?」神戸まで残り36kmで試合中止…“ある川崎Fサポの悲劇”が感動的な結末を迎えるまで
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byHaruya Onoda
posted2023/07/15 11:01
6月3日、ノエビアスタジアム神戸にて。試合中止という“悲劇”の先に、感動的な結末が待っていた
試合中止の一報に呆然、そして爆笑
嫌な予感がした。
恐る恐るTwitterを開くと、その多くは「大丈夫ですか?」という心配の声だった。
その言葉が何を意味しているのか。小野田さんはすぐに察することができた。さらに、川崎フロンターレの公式LINEから「試合中止」の告知も届いていた。何も考えられず、しばらく頭の中が真っ白になった。朝8時過ぎの出来事である。
「ああいうときって、本当に時間が止まるんですよ……。この時点で約570km。あと少しというところで、試合がなくなってしまった。とりあえず、中止を知ったことを投稿しなきゃと思って、セルフタイマーを設定して写真を撮りました」
Twitterに「残り36キロで訪れた悲劇。」と投稿し、しばし放心状態になった。なぜだかわからないが、笑いが込み上げてきて仕方がなかった。小野田さんは、ただただその場で爆笑していた。
奇妙な光景だったのだろう。近くを散歩していたおじさんから「どうしたんですか?」と声をかけられた。
「川崎から自転車で来たんですよ」
「……この台風の中で? 何しに?」
「サッカーの試合を見にきたんです。でも、中止になってしまって……」
事情を理解したおじさんも、一緒に笑ってくれた。
呆然と爆笑の間に30分が過ぎていた。「#悲劇のラスト36キロ」というハッシュタグを付けた小野田さんのツイートはバズり、やがてTwitterのトレンド入りを果たした。スマホの通知は止まらず、もはや返信も「いいね」もできないほどだった。
なお、運転見合わせにより前日移動のできなかった川崎フロンターレの選手たちは、試合当日の新幹線移動に備えてホテルに前泊して待機していた。試合中止が発表されたのは、ちょうど朝食の時間帯だ。バズっている小野田さんのツイートをスタッフが発見し、「チャリで神戸に向かっていたサポーターがいる」という情報は選手たちの間でも話題になっていたそうである。
取材時にこの話を小野田さんに伝えると「マジですか……? うわ、恥ずかしい! いやあ、神戸まで行ってよかった……」と嬉しそうに赤面していた。 その後、小野田さんは残りの36kmを走り抜くことを宣言し、活動再開。快調に走行を続け、無事ノエビアスタジアム神戸に到着した。