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JリーグPRESSBACK NUMBER
「川崎から自転車で来たんですよ」「この台風の中で?」神戸まで残り36kmで試合中止…“ある川崎Fサポの悲劇”が感動的な結末を迎えるまで
text by
いしかわごうGo Ishikawa
photograph byHaruya Onoda
posted2023/07/15 11:01
6月3日、ノエビアスタジアム神戸にて。試合中止という“悲劇”の先に、感動的な結末が待っていた
夢か現実か…まさかの感動的なフィナーレ
そこでは、信じられない景色が待っていた。
ヴィッセル神戸のスタッフが横断幕と旗を掲げ、小野田さんのための花道を用意して出迎えてくれたのである。もちろん、本人はそんな粋な演出を知らされていない。その様子を眺めながら、他人事のように通り過ぎようとしていた。
「せっかくだからスタジアムのまわりを一周しようかなと思っていたら、赤い旗を振っている人たちがいたので、『大学の応援団の練習かな?』って。邪魔をしたら申し訳ないので迂回しようと思ったら、周りの人たちが拍手し始めて……。でも、まさか自分に向けた拍手だとは思わないですよ。ただ、途中から『これ、もしかして俺のためなのか?』とわかって怖くなっちゃいました(笑)」
予想だにしない大歓迎に戸惑っていると、神戸のスタッフから「みんなで出迎えるので、あちら側から回ってきてください」と声をかけられ、言われるがままにゴールテープを切った。ハイタッチを求められ、周囲からの拍手も鳴り止まない。目の前の現実を整理できないまま迎えた、感動的なフィナーレとなった。
丁寧にお礼を伝え、その場から立ち去ろうとした小野田さんだったが、神戸スタッフの計らいでピッチサイドに案内された。スタジアムに足を踏み入れ、本来であれば見るはずのなかった景色を目の当たりにする。イニエスタの等身大パネルとも記念撮影をした。
「もう、ただただ恐縮と感謝です……。一般人なのに写真もたくさん撮ってくれて、めちゃくちゃ嬉しかったですけど、ちょっと恥ずかしかったですね(笑)」
小野田さんの一連のエピソードは瞬く間にニュースとして拡散し、ラジオやテレビのオファーも届いた。今回の自転車旅でお世話になった人たちへの恩返しも兼ねて、出来るかぎり出演することにした。「テレビを作る側」の自分が出る側になるのは不思議な感覚だったが、それもいい経験だと捉えているという。
「勝手にチャリで神戸に行って、台風で試合が中止になっただけですから、勘違いしてはいけない、調子に乗ってはいけない……と自分に言い聞かせています(笑)。元々イクパッパさんの企画が好きで、自分もやってみたかった。本当にそれだけで、何か素晴らしいメッセージを掲げて走ったわけじゃないですから」
そう言って、彼は申し訳なさそうに微笑んだ。