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「川崎から自転車で来たんですよ」「この台風の中で?」神戸まで残り36kmで試合中止…“ある川崎Fサポの悲劇”が感動的な結末を迎えるまで 

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いしかわごう

いしかわごうGo Ishikawa

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photograph byHaruya Onoda

posted2023/07/15 11:01

「川崎から自転車で来たんですよ」「この台風の中で?」神戸まで残り36kmで試合中止…“ある川崎Fサポの悲劇”が感動的な結末を迎えるまで<Number Web> photograph by Haruya Onoda

6月3日、ノエビアスタジアム神戸にて。試合中止という“悲劇”の先に、感動的な結末が待っていた

スマートフォンに「とんでもない数の通知」が…

 大雨によって、宮城天のユニフォームがずぶ濡れになったという4日目。

 滋賀県大津市付近で、ゲリラ豪雨の緊急警報の通知が届いた。なんとかビルの物陰に避難したものの、防水のスマートフォンが一時的に使えなくなるほどの雨に見舞われた。翌日も悪天候が予想されるため、安全を考えて移動は諦め、体力を回復しつつ大津で連泊することに決めた。

 残りはおよそ100km。時速10kmで計算しても、深夜に出発すれば昼ごろには神戸に着く計算である。14時のキックオフにも十分に間に合う。悪天候による思わぬ足止めを受けたが、ゴールは確実に近づいている。

 そもそも、神戸まで行けるとは思わずに始めた自転車旅だ。完走を目の前にすると、興奮でなかなか仮眠もできなかった。深夜2時。大津のホテルでチェックアウトを告げると、フロントのスタッフに「えっ? こんな時間に?」と驚かれた。それもそうだろう。こんな深夜に出発する客などいない。

 街灯の明かりを頼りに、夜道で自転車を漕ぎ始めた。真夜中に始まったラストランだったが、標識の「京都」や「大阪」という地名が目に入るたび、目的地が近づいてきているのがわかる。もう雨は降っていなかった。徐々に夜が明けはじめ、美しい朝焼けに感動しながら神戸を目指してペダルを回し続けた。

 一方で、不安もあった。

 台風2号の影響で、前日から東海道新幹線が運転見合わせとなっていたのだ。それでも小野田さんは、試合開催に関する情報をなるべく入れないように走っていた。「走っている間は、試合と選手のことばかり考えていました」と笑う。

「誰が出るのかな、首位(当時)から勝ち点3を絶対に取りたいな……。そんなことをあれこれと想像しながら(笑)。絶対に勝ちたい試合でゴールを決めてくれるのは小林悠のイメージがあるし、でも宮代大聖にも決めてほしいし……。今の自分の推しは名願なので、『ここで出てくれたら最高だな』とか。生で見るイニエスタも初めてだし、ノエビア自体が初めてなので、楽しみだな、もうすぐ到着するんだよな、って(笑)」

 なにせ現地は台風一過で快晴である。試合が開催されないわけがない。そう信じて走り続けていると、ある川沿いで行き止まりになった。あまりにも綺麗な場所だったので、写真を撮ろうと思ってスマートフォンを見ると、とんでもない数の通知が届いていた。

【次ページ】 試合中止の一報に呆然、そして爆笑

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