酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
防御率0.00! 中日の“20億円級守護神ライマル”は「落合監督ラストイヤーの浅尾拓也」を超えるか…過酷なブルペン待機でもエグすぎ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/07/10 17:00
中日のライデル・マルティネス。いまだ防御率0.00を誇るスーパー守護神だ
主力級の救援投手で防御率0.50以下の記録を残したのは、2011年、ライデルと同じ中日の浅尾拓也だけ。
79試7勝2敗10S 45H 87.1回100奪三振 失5 責4 率0.41
落合博満監督体制ラストイヤーだった中日はこの年リーグ優勝、浅尾は中継ぎ投手として初めてMVPに輝き、最多ホールドも獲得した。79試合に投げて自責点4も驚異的だ。
ライデルも現時点でリーグ2位タイの19セーブだが、たとえタイトルを取ったとしてもチームは下位に低迷しているから、MVPに選ばれることはないだろう。
WBCキューバ代表にも選ばれていたライデルの特殊性
ライデル・マルティネスはキューバ出身、国内リーグを経て2017年に中日ドラゴンズに育成契約で入団したが、厳密には、キューバ国内リーグの名門チーム、ピナール・デル・リオに在籍し、このチームから「派遣」されている状態だった。
この点、同じキューバ出身のチームメイト、ダヤン・ビシエドとは境遇が違う。ビシエドはキューバからアメリカに亡命し、MLBを経由して中日に来た。
ライデルは年俸の一部をキューバに還元。2020年まではピナール・デル・リオの一員として日本の冬季に行われるキューバ国内リーグでもプレーしていた。また今年のWBCではチームメイトのジャリエル・ロドリゲス、ソフトバンクのリバン・モイネロらとともにキューバ代表に選ばれている。
ライデルは、常に異なる2つの世界の野球を体感しながら、プレーをしているわけだ。日本人選手とはひと味違う視野を持っていると言えよう。移籍当初は荒れ球で精度感のない投手だったのが、2年目に救援に転向してから急速に実力を蓄え、昨年は初の最多セーブ。防御率も0.97と圧倒的な成績を残した。
驚くべき制球力…年俸2億円もMLBなら約10倍?
驚くべきは制球力だ。制球力と安定感の指標であるK/BB(奪三振数÷与四球数)は、1年目の2018年は1.75(14奪三振/8与四球)だったが昨年は5.17(62奪三振/12与四球)、そして今年は何と20.5(41奪三振/2与四球)だ。1イニング当たりの球数は昨年が15.3球だったのが13.6球に。この数値は15球を割り込めば優秀と言われる中で、抜群の数字だ。打者はどんどん追い込まれていくから、手を出していかざるを得ないのだ。
193cmの長身、長い手足を存分に使って最速161km/hの速球と鋭く落ちるナックルカーブ、スプリットを投げる。
打者にのしかかるような圧倒的な迫力で相手チームを抑えるさまは、今のNPBでも格別の「見もの」の1つだと思う。