酒の肴に野球の記録BACK NUMBER
防御率0.00! 中日の“20億円級守護神ライマル”は「落合監督ラストイヤーの浅尾拓也」を超えるか…過酷なブルペン待機でもエグすぎ
text by
広尾晃Kou Hiroo
photograph byHideki Sugiyama
posted2023/07/10 17:00
中日のライデル・マルティネス。いまだ防御率0.00を誇るスーパー守護神だ
シーズン開幕前、ライデルとともにWBCに出場したチームメイトのジャリエル・ロドリゲスが亡命し、MLB球団との契約を目指していると報じられた。ジャリエルもキューバ国内リーグから中日に派遣され、昨年はセットアッパーとして39ホールド防御率1.15と好成績を残し、ライデルと「勝利の方程式」を組んだ。彼の離脱は今季の中日の低迷と無関係ではないだろう。
ジャリエルよりNPBではるかに実績を残しているライデルは、MLBに行けば今の年俸(推定2億円)の10倍程度のオファーがあるかもしれない。
アメリカとキューバの関係は、オバマ政権で雪解けの兆しが見え、キューバからMLBへの選手の直接の移籍が可能になると言われたが、トランプ政権になってその道は閉ざされた。バイデン政権の出方次第では、アリエルのような「亡命」という荒業を使わずとも、メジャーリーガーになる道が拓けるかもしれない。ライデルはMLBでも通用するはずだ。
ブルペンが見えるベルーナドームでじっくり観察すると
6月7日、ベルーナドームの西武-中日戦、筆者は一塁側ポール際で観戦していた。試合は中日涌井秀章が好投、西武は本田圭佑から4投手の継投で0-0の投手戦となった。
筆者の目の前には、中日側のブルペンが広がっていた。
試合の中盤までは中継ぎ投手が次々ブルペンから出撃していたが、6回になるとライデルが姿を現し、ブルペン捕手の三輪敬司の肩に手をまわして何事か話し始めた。昨年ならジャリエル、アリエル・マルティネス(捕手、今季から日本ハム)と同じキューバ人の仲間がブルペンにいたが、今年スペイン語を話すのはライデルただ一人である。
それでもリラックスした表情で屈伸をし、入念なアップを始めた。そして7回、キャッチボールから入って投げ込みを始めた。大きな背中の92番が躍動している。彼の出番は9回限定だが、この頃からエンジンをかけるのだ。
しかし7回裏、西武の源田壮亮にタイムリーが出て、0-1となった。セーブシチュエーションでなくなった途端、ライデルの横で祖父江大輔が肩を作り始める。
9回表、中日は代打・村松開人の犠飛で1-1の同点に。ライデルは投球をやめて、ブルペンの椅子に座って戦況を見つめていた。9回、涌井に代わって祖父江がマウンドに向かう。ブルペンのスタッフが拍手で送りだす。ライデルは再び立ち上がって軽く体を動かし始めたが、祖父江は1死から途中出場の長谷川信哉にサヨナラホームランを食らった。
ブルペンで待機していたライデルも、他のスタッフもあっという間に姿を消した。