サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
「エンドウとケンゴはいい選手だ。だから“走れ”と解説で言え」オシムが山本昌邦へ密かに伝えたこと「オシムさんは必ず相手の監督を…」
text by
山本昌邦&武智幸徳Masakuni Yamamoto&Yukinori Takechi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/06/20 11:02
日本代表監督時代のオシム氏
リハビリの現場に行ったら「いいか、お前…」
武智 随所で、そういう奥深さを感じさせる監督でした。それだけに07年11月にご自宅で脳梗塞で倒れ、奇跡的に一命を取り留めたのはよかったのですが、代表の仕事を続けられなくなったのは本当に残念でした。
山本 今から考えると、もっと話を聞いておけばよかったと思いますよ。オシムさんしかわからないことがたくさんあったと思うから。病に倒れられた後ですけど、初台のリハビリテーションセンターにいらっしゃったので、私は家が近かったこともあるし、「来いよ」と言ってもらったから、お茶菓子を持って図々しく行っていたんです。
奥様のアシマさんがいらして、「通訳も来るから」というタイミングでちょくちょく行かせてもらって。そのとき、私はジュビロの監督を辞めて解説の仕事をやっていたものだから、オシムさんが言うわけです。「いいか、お前、日本の選手たちは全然、走れていないから『走れていない』と言い続けろ。テレビの解説で若い選手たちに、もっと走れ、こんな緩いサッカーじゃ世界なんて見えて来ないと言え」と。そのときに引き合いに出されるカードから、リハビリ中なのに、この試合も見ている、あの試合も見ていたのかと思いましたよ。アシマさんが「この人はサッカーのことしか考えていないから。目を離すとすぐに見るから、テレビを消さないといけないのよ」とこぼしていました。
「遠藤と憲剛はいい選手なんだ。だからこそ」
武智 オシムさんは当時、どの選手に「走れ」と?
山本 「遠藤保仁と中村憲剛はいい選手なんだ。だからこそ、もっと走るように解説で言え」と言っていましたね。「彼らは能力、インテリジェンスもある。でも、世界に追いつくにはもっと走らないとダメだ」と。2007年のアジアカップも、私はテレビ解説の仕事でベトナムに行っていたのですが、練習を見学していても楽しかったですから。確実にチームを成長させられる人で、必ずいい方向に持っていく手腕がありました。
そのときも「暇なら遊びに来い」と言われて、ホテルのロビーにあるカフェでオシムさんといろいろと話しました。取材で他国の練習を見ていたので、その印象を私の方でも話したり。オシムさんは隠すことなんかないという感じでサッカーの未来のためにと、何でもさらけ出してくれました。アジアカップはベスト4で負けましたが、チームの成長は感じましたね。<#3「森保一編」、#1「トルシエ編」につづく>
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