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「エンドウとケンゴはいい選手だ。だから“走れ”と解説で言え」オシムが山本昌邦へ密かに伝えたこと「オシムさんは必ず相手の監督を…」
text by
山本昌邦&武智幸徳Masakuni Yamamoto&Yukinori Takechi
photograph byTakuya Sugiyama
posted2023/06/20 11:02
日本代表監督時代のオシム氏
武智 そういえば、ジェフから村井慎二と茶野隆行を獲得しましたよね。
山本 そうです。若くて動ける選手が欲しくてね。
武智 オシムさんに文句を言われませんでしたか(笑)。
山本 まったくないです。オシムさんは「いいんだよ」と言ってくれました。「また若いやつを鍛えればいいんだ」と言ってね。太っ腹というか、そういう人でした。そもそも肝の座った大きな人だということは90年のW杯で証明していますよね。分裂する前のユーゴスラビア代表を率いたオシムさんは大会前から「スターを使え」とメディアに突き上げをくらっていた。初戦でそういう選手たちを中盤で多く起用したら1-4で西ドイツに惨敗した。そうやって「あなたたちの言う通りにやったらこうですよ」と示しておいてから、その後の2試合に自分が思うとおりの選手を使ってきっちり勝って、決勝トーナメントに進みました。
武智 W杯で、こういう言い方がふさわしいのかどうか分かりませんが、捨てゲームをつくったわけですよね。にわかには信じがたいことですよ。考えていること、見すえていることの次元が違うというか。
山本 多民族国家という複雑な背景がある中で、代表チームを率いて結果を出した。ラウンド16でスペインを破り、ベスト8はPK戦で前回王者のアルゼンチンに敗れましたが、内容はむしろ押していた。
武智 それも退場者を出して1人少ない状況だったのに。
実際はたまにしか裏をかかない。でも…
山本 代表監督としての腹のくくり方が違いますよね。オシムさんのレベルまで行くと、周りも「すごい」と一目も二目も置くから、オシムさんが普通のことをやっていても勝手に「何かあるのでは」と思ってしまう。
武智 オシムさんは、そういうアドバンテージも持っている監督でしたよね。
山本 実際にはたまにしか裏をかくようなことはしないわけです。でも、その印象が強くなる。ジェフの試合で、あるとき、オシムさんが前半の浅い時間でミスした若いセンターバックを交代させた。全体がどんよりしているから、そのセンターバックを外して違うセンターバックを入れたんですよ。その若い選手の心が折れてしまうんじゃないかと周囲は思うわけです。でも、チームを勝たせるためにスパンと決断して、その外された選手は次の試合で先発させるんですよ。1試合の采配は采配、一方で長い目で選手を育てる目もある。まさに監督の経験値ですよね。