バレーボールPRESSBACK NUMBER
深津三兄弟の“お兄ちゃん”が初の大舞台へ! 35歳セッター深津旭弘の遅れてきた全盛期「石川や藍とか若い選手のおかげで…今が一番いい」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuko Tanaka
posted2023/06/09 11:02
日本代表コーチを務める弟・貴之(左)と肩を組むセッター深津旭弘(35歳)。元日本代表の三男・英臣からもエールをもらった
ネーションズリーグ開幕を間近に控えた会見で、何気なく発せられた深津への質問に違和感を覚えた。
『代表は久しぶりの復活ですが、以前と比べて何か違いはありますか?』
復活、と聞いて生じる疑問。だが腑に落ちた。
深津家は三兄弟で全員がバレーボール選手。背番号3をつける長男の横で、日本代表のコーチとしてベンチに座るのが元アウトサイドヒッターの次男・貴之。そして三男は現在パナソニックのセッターであり、日本代表でもメインセッターとして活躍した英臣。おそらくその記者は三男の英臣と間違えたのだろう。顔も、奇をてらわない堅実なトス回しも、確かに似ている。
そもそも、最初に脚光を浴びたのは三男の英臣だった。2013年に日本代表へ選出され、2015年のW杯、2016年の五輪最終予選でセッターを務め、2017年には日本代表の主将も任された。
一方、3歳上の旭弘はJTサンダーズ広島で正セッターを務めた2014/15シーズンに創部84年で初優勝という快挙を達成。しかし、日本代表に関しては登録選手に名を連ねても、最初の合宿を終わればチームを離れることが多かった。2015年ワールドリーグでは弟と共に本大会メンバーに選出されているが「いつだったかもよく覚えていない」と言うように、「日本代表」は縁遠いものだった。
引退して社業に専念する道もあったが…
転機になったのは2021年、堺ブレイザーズへの移籍だ。
セッターとしてVリーグで着実にキャリアを積み上げていく一方で、30歳を超えた頃から「どこかで限界を感じていた」と振り返る。
「今までは、勝つために苦しむ。追い込む。そう考えてきました。勝ちたいからこそ楽しまなきゃ、と思うけれど、それだけでは勝てない。そうなると結局、練習しなきゃ、もっと苦しまなきゃダメだ、と思うし、勝つためにはこうしないと、とどこかでがんじがらめになってしまって、結局答えが出ないんです。自分でも気づかないうちにパターンにはまっていて、自分のやりたいバレーなんて考える余裕もなかった。チャレンジとは程遠いですよね。年齢も重ねて、家族もいる。バレーも、生活も、むしろ守りに入っていました」
同時期にJT広島も若手主体へと舵を切る。精神的支柱であった深津も2020/21シーズン終了後、来季の構想からは外れ、契約の意向がないことを告げられた。そのままサラリーマンとして社業に専念する道もあったが、現役続行を希望し、移籍を決める。
「あと数年、悔いなくやろう」という思いではあったが、新天地での挑戦を機に「守り」から「攻め」へ。今まではこうしてきた、というセオリーを捨て、新たな気持ちで臨んだ堺でレギュラーを獲得。トスワークだけでなく、サーブ、ブロック、ディグでも常に「攻め」の姿勢を貫いた結果、34歳で再び日本代表登録メンバーに名を連ねた。
そして、その先には考えもしなかったセカンドチャンスが待っていた。