バレーボールPRESSBACK NUMBER
深津三兄弟の“お兄ちゃん”が初の大舞台へ! 35歳セッター深津旭弘の遅れてきた全盛期「石川や藍とか若い選手のおかげで…今が一番いい」
text by
田中夕子Yuko Tanaka
photograph byYuko Tanaka
posted2023/06/09 11:02
日本代表コーチを務める弟・貴之(左)と肩を組むセッター深津旭弘(35歳)。元日本代表の三男・英臣からもエールをもらった
その一方で、ブラン監督が「長期的にはさまざまな選択肢がある」とコメントしたように、まだネーションズリーグに選出されたというだけで、その先が保証されたわけではない。何より「自分より可能性があって、うまいセッターばかり」と言うように、ポジション争いが熾烈であることは誰よりも深津自身が理解している。
「まだ試されている段階で、自分に何ができるか。目に見えるのは結果だけれど、そこにとらわれすぎてもダメだと思うので、いい意味での開き直りも大事だな、とは思います。自分が出たい気持ちを忘れちゃいけないけれど、セキ(関田)も『こういう時、どうしたらいいですかね』とフラットに話してくれるのも嬉しいし、セキのフォローも絶対にしないといけない。お互いいいところを出し合って、高め合えればいいと思うし、自分のほうが出場時間は短いかもしれないけれど、2人でチームを支えられるように。オリンピックの切符を取るためにとにかく貢献したい、チームの力になりたいという気持ちが強いです」
年下の選手から学ぶ“チャレンジ精神”
ネーションズリーグになれば1勝、1球、1点に緊張が伴う展開が続く。ましてや秋に行われるパリ五輪予選となれば、プレッシャーがかからないわけがない。だがそれも、深津にとっては初めての経験。苦しさや厳しさよりもむしろ、この場にいて感じる楽しさを存分に味わっている。
「長くやればやってくるほど、錆じゃないけれど自分にいらないものもついてくる。でもここ(日本代表)では目標が一緒だから、求めるものの純度が高くなるから純粋なんです。バレーボールを始めた頃って、ただバレーが好きだし、あれをやってみよう、これもできるようになった、というのが楽しいじゃないですか。石川とか、藍とか、若い子たちはまさにそう。うまく行かなくてもすぐ切り替えて次へ向くし、またチャレンジする。そういう彼らと一緒にやるおかげで、自分がもっと自由になっていける感覚があります」
時に歳の離れた仲間たちからは、手痛い仕打ちも食らう毎日でもある。
「髪の毛をバッサリ切って合宿に行ったら、髪がツンツンしていたから『トンガリ』といじられたんです。だから『誰がキテレツ大百科のトンガリや』と言ったら、みんなわかんないから、シーンとなっちゃって……。毎朝みんなに『おじいちゃん、おはよう』って言われます(笑)」
そう笑っていられるのも、自分の可能性を信じられる今が何より楽しいから。
「この年齢でも日々発見があって、成長できるし、うまくなれそうだな、って思うから、今が一番いいのかな。これからが、僕の全盛期ですよ」
これまでは、先を歩む弟・英臣を励ます日々だった。東京五輪出場が叶わなかった時には冗談半分で「東京がダメでもパリがあるっしょ」と激励した。ずっと背中を押す存在だったから、“深津”ではなく、“深津の兄”と呼ばれ続けてきた。だが今は違う。勝負の舞台に立つ兄を「ここまで来たら頑張れ」と今度は弟が背を押している。
人生とはわからないもので、だからこそ面白い。
誰より声を張り上げ、コートを駆け回る。
THE SECONDのような復活劇ではない。むしろTHE FIRST。35歳のオールドルーキーが描く物語が始まるのは、これからだ。
記事内で紹介できなかった写真が多数ございます。こちらよりぜひご覧ください。