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三笘薫が来季参戦EL決勝がアツかった…「オレたちほどこの大会を愛している者はいない」迷走セビージャを栄光に導いた“乾貴士の恩師62歳”
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph byGetty Images
posted2023/06/03 17:00
ヘスス・ナバス、ラキティッチらとセビージャにELトロフィーをもたらしたメンディリバル監督(左端)。エイバル時代には乾貴士と戦った時期もある
今回はセビージャにとって、これまでで最も厳しい状況で迎えたファイナルだった。3年前に6度目のEL優勝をもたらしたジューレン・ロペテギ監督が、家庭の事情もあって今季は序盤から苦しみ、10月上旬に解任。後任に就いたホルヘ・サンパオリはさらなる迷走を招いた。後方からのショートパスにこだわりすぎ、不用意な失点を重ねたチームは、春になっても降格圏付近を彷徨い、シーズンが残り3カ月を切った段階で今季3人目の指揮官を招聘した。
かつて乾とともにエイバルで戦った62歳指揮官
ホセ・ルイス・メンディリバル──よほどのスペイン通、もしくは乾貴士が所属していた時代のエイバルを追っていたファンでないかぎり、この62歳のスペイン人監督のことを知る人は少ないだろう。現役時代に代表歴はなく、指導者になってから獲得したタイトルは2部リーグ優勝のみ。乾らを擁してスペインでも小規模なクラブだったエイバルを9位に躍進させ、過去にシーズン途中に就任したオサスナを残留に導いたことはある。ただほかのいくつかのクラブで降格も経験しているから、“残留請負人”というわけでもない。
ただし指針を失っていた今季終盤戦のセビージャには、この質実剛健なベテラン指揮官が見事にハマった。
「彼(メンディリバル監督)が僕らを変貌させてくれた」と言ったのはナバスだ。最多タイ記録となる4度目のEL優勝を遂げたセビージャの象徴は続ける。「監督は今後も長くここにいるべきだ。これまでに苦労を重ねてきた人だから、今は大いに喜んでほしい」
「選手とはすごく良い関係を築けている」
メンディリバルが初めてUEFA主要大会の試合で指揮を執ったのは、4月中旬のEL準々決勝第1戦だった。筆者はマンチェスター・ユナイテッドの本拠地オールド・トラフォードで行われたこの一戦を現場で取材したが、前半に2点を先行されたセビージャがそのまま敗れるのではないかと思っていた。ところが、またこの時も後半にやるべきことをやりながらペースを掴むと、またまたこの時も(2つの)オウンゴールでドローに持ち込んでいた(ホームでの第2戦は3-0で勝利)。
「クラブのために優勝できて嬉しい」と試合後、EL史上最年長優勝監督となったメンディリバルは言った。飾り気のない発言ばかりだが、「選手とはすごく良い関係を築けている」というコメントに、本質が表れていたような気がする。