球体とリズムBACK NUMBER
三笘薫が来季参戦EL決勝がアツかった…「オレたちほどこの大会を愛している者はいない」迷走セビージャを栄光に導いた“乾貴士の恩師62歳”
posted2023/06/03 17:00
text by
井川洋一Yoichi Igawa
photograph by
Getty Images
傷なし同士のヨーロッパリーグ決勝はやはり、もつれにもつれた。
過去6度の同大会ファイナル(UEFAカップ時代を含む)で全勝のセビージャと、過去5度の欧州カップ戦決勝で全勝のジョゼ・モウリーニョが率いるローマの戦いは、1-1の後の延長戦でも決着がつかなかった。
ラキティッチ→ナバスの流れから…
前半に早いリスタートからパウロ・ディバラが抜け目なく先制点を決めた時は、そのままローマが逃げ切ることも考えられた。なにしろ、これはモウリーニョのチームだ。1点リードで迎えたレバークーゼンとの準決勝第2戦では、シュートを1本しか打たず、守りに守り切って決勝への切符を掴んでいる。インテル・ミラノを統率していた2010年のチャンピオンズリーグ準決勝第2戦で、バルセロナを相手に1点差を死守した時のように──そしてこの時はバイエルンとの決勝も制して、インテルに欧州王座をもたらしている。13年後のEL決勝も、流れはモウリーニョが掴んだかに見えた。
だがこの日はそんな展開にはならず、ハーフタイム後にリズムを持ち直したセビージャが55分に追いついた。イバン・ラキティッチから丁寧なパスが右のヘスス・ナバスに渡ると、37歳のサイドの職人は眼前の敵を抜き切らずに絶妙なクロスを上げ、ジャンルカ・マンチーニのオウンゴールを誘発した。
75分にはルーカス・オカンポスがボックス内で倒されたように見え、一度はPKが宣告されるもVARで取り消しに。その後は互いが死力を尽くす激戦の末に、スコアは動かずに120分が終わった。
「オレたちほど、この大会を愛している者はいない」
PK戦を4-1で制したのはセビージャだ。MOMに輝いた守護神ヤシン・ボノが2つのキックをセーブし、4人目のキッカー、ゴンサロ・モンティエル──カタールW杯でアルゼンチンの優勝を決めたPKキッカーだ──がやり直しのシュートを沈めて試合終了。最後は監督だけが持つジンクスよりも、チーム、いやクラブ全体の勝負強さがモノを言ったか。
「オレたちほど、この大会を愛している者はいない」
7度目のEL王者となったセビージャのサポーターが叫ぶこのフレーズは、クラブの合言葉になっている。そんなセビージャを想う人たち全員の力があったからこそ、困難なシーズンの最後に大好きなタイトルを手にすることができたのだろう。