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「え、ファイターズが北広島にくる」人口6万の市がなぜ新スタジアムの候補地に? 当て馬にされているのでは…「どこまで本気かわかりませんよ」
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byKiichi Matsumoto
posted2023/05/11 06:03
2023年から北海道日本ハムファイターズの本拠地となった「エスコンフィールドHOKKAIDO」。人口6万人の北広島市になぜ新スタジアムが建設されたのか
ファイターズが北広島に……くる?
「球団はいま新しい球場をつくる場所を探しているんだ。そして、その建設候補地に……北広島が入っている」
思わず杉原の口から「え」と声が出た。
ファイターズが北広島に……くる? 疑問を通り越して頭は真っ白になった。杉原は呆然としていた。全身にまわっていた酔いが醒めていく感覚があった。
川村の言葉を聞いて、この数カ月の異変には合点がいった。頻繁な電話はやはりファイターズの前沢からであり、内容はとても他言できるようなものではなかったのだ。その秘密を一人で抱えてきた川村の胸中は察することができた。
だが、打ち明けられた事実はあまりに現実離れしていた。北広島は半世紀も眠っていた総合運動公園の開発に腰を上げたところだった。プロ野球二軍戦の誘致でさえハードルの高い挑戦と考えていた。そんな人口6万人に満たない小さな自治体に、年間200万人を動員するプロ野球球団がやってくることなどあり得るだろうか。答えは明白だった。
異様な緊張感が漂った初会談
杉原はあらためてファイターズと会談した日のことを思い起こしてみた。球団側の交渉者である前沢は黒縁眼鏡の奥に鋭い眼を光らせていた。いかにもスポーツマーケティングの世界を生き抜いてきたビジネスマンという隙のなさを感じさせた。そして、場の空気にかかわらずストレートに物を言う人物だった。
二軍戦誘致のために必要なスタジアム設備について議論している最中、前沢がこんなことを口にした。
「もし北広島市さんが本当にプロの試合でお客さんを呼ぼうと思うなら、メジャーリーグの球場を見に行った方がいいですよ」
それに対して、川村が同行させていた調査会社のスタッフが自嘲気味に笑った。
「いえいえ、こちらはあくまでアマチュアの試合をベースに考えていますから……」
すると前沢が急に語気を強めた。
「そっちが訊きたいというから、ベストだと思うことを話しているんだろう」
場は静まり返った。何とか川村がとりなしたが、初対面の会談としては異様な緊張感が漂っていた。