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「ディープ、勝ち方を教えてくれ!」WBC栗山英樹監督が叫んだ日 世界一のチーム作りの源にあった三冠馬との絆秘話「ディープインパクトが大谷翔平ならオルフェは…」
text by
木下大輔(日刊スポーツ)Daisuke Kinoshita
photograph byAFLO
posted2023/04/29 17:00
WBCで日本代表を頂点へと導いた栗山監督
さまざまな個性を最大限に生かしていくための新たなヒントをディープから得た16年。大谷には投打二刀流でノビノビと"馬なり"で楽しませながら才能を爆発させた。中田には打撃不振時に4番ながら代打を送るという"ムチ"で刺激を与えながら、最後まで高いポテンシャルを引き出し続けた。他にも多種多彩な手綱さばきで夏場には球団新記録となる15連勝をマーク。好位置に付けながら、最後はソフトバンクとの一騎打ちを"クビ差"で制し、日本シリーズでも広島を破って日本球界の頂点に立ったのだ。
札幌ドームで絶句したディープの訃報
栗山監督は翌年以降もオフシーズンになると必ず、ディープに会いに足を運んでいたが、訃報は突然訪れた。19年7月30日、頸椎骨折により安楽死処置を受けたディープは天に旅立った。その日、札幌ドームでの試合前に報道陣に対応した栗山監督は悲痛な表情で語り出した。
「本当に……本当に、残念だな……。あれだけ多くの人たちに夢や希望、元気を与えた。俺もすごく、勝ち方とか意識したこともあった」
初対面から3年が経過していたが、変わらずに選手たちへ求める姿は、ディープが教えてくれた勝つための真理そのものだった。
「本当に走ることが大好きだった、と。これは本当に大原則だと思う。野球も一緒で、誰よりも野球を好きで、野球を一生懸命にやるしかないと思うんだよ。本当に野球が好きで、誰よりも野球を一生懸命やる人には勝てないのが、原理原則だと思うから」
それぞれの人には「天命」がある
ここまで、栗山監督がディープに魅了された理由は、圧倒的な強さだけではない。人だろうが、馬だろうが関係なく、与えられた運命に真正面から向き合う姿に心を奪われていたのだ。
「天命みたいな、この世に生まれてやらなきゃいけないことが、それぞれの人にはやっぱりあると思うんだけど、ディープなんか、やっぱり会いに行っても自分がどういう存在かを分かっていて、自分がどうしたら人が喜ぶかとかも分かっていた感じがした」
初対面の時に贈られたディープのたてがみは、今も宝物として大切に保管している。そして訃報から毎年欠かさず足を運んでいるのが、ディープの墓参りだ。侍ジャパンの監督となって今年3月のWBC前にも、墓前で世界一奪還を誓っていた。きっと、ディープのように、自身にも課された天命を全うする覚悟を伝えたのだろう。日本が誇る世界一のサラブレッドの生きざまが、世界一奪還を果たした栗山流チームマネジメントの源流にあった。
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