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村田諒太はゴロフキン戦をどう振り返る? 映像を見ながら明かした「やれてるじゃん、俺」「むしろ考えないことに集中した」
text by
村田諒太Ryota Murata
photograph byTakashi Mochizuki(BIFE pictures)
posted2023/05/05 11:02
引退後初の著書執筆のため、昨年4月のゴロフキン戦の映像を久々に見返した村田諒太。本人が明かしたのは…
22年4月9日、土曜日。東京は朝から晴れわたり、気温も最高25度近くまで上がって過ごしやすい一日だった。
試合前はいつも家族と離れてホテル生活を送る僕は、2カ月以上にわたって滞在していた東京ドームホテルで午後までゆっくり過ごした後、所属する帝拳ジムのスタッフによる迎えの車で夕方にホテルを出発した。午後9時の試合開始に合わせ、6時に会場のさいたまスーパーアリーナに入った。
用意されたドレッシングルームには、ジムのトレーナー陣やボクサー仲間、スタッフに混じって、時折、激励に来てくれた方々やボクシング関係者も出入りしていて、世界タイトルマッチならではのにぎやかさがあった。それでも、僕はいたって落ち着いていた。かつては試合会場に向かう車のブレーキによるわずかな揺れにもイライラしたことがあったが、この日はそんなことは一切なかった。
隣がゴロフキンの控室であることさえ気づいていなかった
試合開始まで2時間を切った頃、ゴロフキン陣営の人間と試合役員が見守る中で両拳にバンテージを巻き始める。互いに相手のバンテージ巻きに立ち会うのは、中に異物を入れたりなどの不正をしていないか監視するためだ。そのままグローブを着け、軽くウォーミングアップを行った。トレーナーのカルロス・リナレスが持つミットにパンチをたたき込む。拳に体重もしっかり乗っている。調子の良さを感じていた。
壁一枚だけ隔てた隣の部屋が、ゴロフキンのドレッシングルームだった。
後日、帝拳ジム代表で元WBC(世界ボクシング評議会)世界スーパーライト級王者の浜田剛史さんが、ご自身のユーチューブチャンネルで「ゴロフキンの控室からリズミカルなミット打ちの音が聞こえてきた。とても強くて、速いパンチだと思った」と語っていたと人づてに聞いた。もちろん、そのときは僕も浜田さんと同じ部屋にいたのだが、実は隣がゴロフキンの控室であることさえ気づいていなかった。浜田さんの話によると、僕はもうウォームアップを終えて、静かに椅子に座って出番を待っていた時間帯だったそうだ。耳に入っていないはずはないが、意識がそこに向いていなかったということだろう。これまで集中を高めたり心を鎮めたりするために瞑想や座禅を実践してきていたが、そんな効果もあったのかもしれない。