炎の一筆入魂BACK NUMBER
開幕4連敗のち初勝利…肯定、許容、尊重で選手を導く、カープ新井監督の我慢強さ《新監督1勝目は降雨コールドで》
text by
前原淳Jun Maehara
photograph byJIJI PRESS
posted2023/04/10 06:00
初勝利となった4月6日の阪神戦で、4回に2藍HRを放ったデビッドソンを迎える新井監督
米国での実績があっても、オープン戦でいくら結果を残しても、新外国人選手がシーズンではどうなるか分からない。計算を立てにくいのは過去の外国人選手を思えば明らかだ。デビッドソンはキャンプで柵越えを連発するわけでもなく、実戦でいい内容の打席が多かったわけでもなかった。期待より不安が増す状況だったが、新井監督はアプローチや打席での考え方こそ助言したが、フォーム改造を命じることも個別練習を課すこともせず、ただ言葉や表情で信頼を伝えてきた。メジャーでプレーし、3Aで実績を残したプライドがある“助っ人選手”として、リスペクトしながら関係を構築してきた。
そのデビッドソンが期待された長打力で新井監督初勝利に大きく貢献し、蓄えた顎ひげをさすりながら笑った。
「常に僕たちの近くに来てコミュニケーションを取ってくれて、チーム全体が彼をリスペクトしている。そういった監督の1勝を手助けできて非常にうれしい」
肯定により引き出される力
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悪天候の中、最後までリードを守り抜いたのが、プロ初めてのスライド登板で先発を託された遠藤淳志だった。
雨水で固まった土がスパイクの金具に張り付いて、踏み出した左足にブレーキが利かない。雨脚が強くなった2回以降は特に抜け球が目立つようになった。5回まで5四死球。毎回走者を背負った。
「腹をくくって、その後の打者には全力で投げることができた」
胸の裡には新井監督からの言葉があった。新指揮官と初対面となった秋季キャンプのブルペンで声をかけられた。
「高めに真っすぐを3球、投げてみてくれ」
この日の投球練習で球がバラついていただけに、制球面を指摘されるのかと思った。これまで何度も指摘され、修正しようとしてきた課題だ。監督が代わっても……と思っていたら、予想していなかった言葉をかけられた。
「お前の真っすぐは高めに行っても強いから、打者は嫌だよ。(低めにビシビシ制球する)理想を追い求めるのも大切だけど、そこだけにフォーカスし過ぎると、自分が苦しくなったり、小さくなったりする」
昨季までなら制球を気にするあまり、自ら崩れていったかもしれない。だが、今年は違う。走者を出しても、足場を気にしつつ目いっぱい腕を振った。
新井監督は前向きな言葉と、ありのままを肯定する器量で選手を包んでいる。管理するわけでも、自由を与えているわけでもない。考え、気づかせ、そして導く——。チーム批判や勝敗の責任は、すべて背負う覚悟でいる。時間はかかるかもしれないが、新井監督はなにしろ我慢強い。
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