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WBC決勝進出で身を固くした男・今永昇太(29歳)はなぜ米国との頂上決戦に抜擢されたのか?「僕ひとりだけ緊張していたと思います」
posted2023/03/21 20:30
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph by
Naoya Sanuki
侍ジャパンの底力を見せた劇的な逆転サヨナラ勝ちだった。
1点を追う土壇場の9回裏。導火線に火をつけたのは、やっぱりこの男だった。
指名打者の3番・大谷翔平投手だ。
先頭で打席に入ると、いきなり初球を叩いて右中間を割った。二塁ベースに立った瞬間、今度は「カモン! カモン! カモン!」と両手を3度、三塁ベンチの仲間たちに振って「ついて来い!」と合図を送った。
その思いを4番の吉田正尚外野手がつなぐ。カウント3-1からの四球で一、二塁。そして打席に入ったのが村上宗隆内野手だった。
「代打かな…」村上の頭によぎったが…
日本の主砲はこの日も苦しんでいた。
第1打席から3打席連続三振。迎えた7回の第4打席ではネクストで素振りをしていると、ベンチで山川穂高内野手がバットを手に準備をする姿が目に入った。
「代打かな……」
そんな覚悟もよぎった村上だったが、直後に吉田の3ランが飛び出し、首の皮一枚が残った。そしてその打席もまた三邪飛に倒れたが、追い詰められた村上はそこで逆襲への感触を掴んでいたのだという。
迎えたのは9回の第5打席だ。
「前の打席の感覚を信じて最後の打席に立ったら、初球を振ったときにちょっと前にスウェーしているなとか、色んなことを冷静に感じられた。そこを修正していけました」
無死一、二塁で打席に入ると、初球の151kmを三塁スタンドにファウル。2球目の低めのスライダーにはきっちりバットが止まった。そして3球目の151kmだ。しっかり呼び込んで得意の逆方向に強く叩けた。打球は左中堅フェンスを直撃。大谷に続き一塁から代走の周東佑京外野手も一気にホームに滑り込んで、日本の3大会ぶりの決勝進出が決まった。
決勝進出が決まった瞬間、ベンチで身を固くした男
その瞬間、グラウンドではあっという間に選手たちの歓喜のセレモニーが始まったが、ただ一人、ベンチで身を固くした男がいた。