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甲子園史に残る“東洋大姫路・アンとの死闘”…「20年前の主人公」花咲徳栄エースが明かす“サヨナラ暴投の予感” 

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田口元義

田口元義Genki Taguchi

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photograph byJIJI PRESS

posted2023/03/24 11:01

甲子園史に残る“東洋大姫路・アンとの死闘”…「20年前の主人公」花咲徳栄エースが明かす“サヨナラ暴投の予感”<Number Web> photograph by JIJI PRESS

20年前のセンバツで伝説の引き分け再試合となった花咲徳栄VS東洋大姫路。当時エースと監督が舞台裏を明かす

ベスト4をかけた「伝説の試合」

 2試合ですでに327球を費やしていた福本は、東北エースのダルビッシュ有のピッチングにヒントを得た岩井から念を押される。

「ストレートにも緩急をつけなさい。追い込んでから力を入れて投げれば、相手バッターはより速く感じるから。コースはとにかく高さだけ気を付けて、ひざ元を意識しなさい」

 だから、ベスト4を懸けた東洋大姫路との一戦では淡々と腕を振れた。ベトナム国籍を有し、1年夏から甲子園のマウンドを経験する話題の相手エースのグエン・トラン・フォク・アンも、特別意識することはなかった。

 7回終了時点で両チーム無得点、ヒット数もともに5本ずつ。岩井が「ずっと終わらないでほしいな」と不思議な感覚に襲われた試合は、最後まで写し鏡のような展開となった。

41年ぶりの引き分け再試合

 0-0のまま突入した延長10回に1点ずつ挙げ、迎えた延長15回表。東洋大姫路の守備の乱れから花咲徳栄が1点を勝ち越したかと思えば、その裏、2死三塁ながら「あとひとり」の場面で、味方にエラーが出て再び同点に。そのまま2-2で3時間13分の激戦は終幕した。

 センバツでの引き分け再試合は実に41年ぶり。00年に延長戦が18回から15回に短縮されてからは初めてだった。

「あぁ……疲れた」

 試合直後の福本に訪れたのは、15回を投げ切った達成感ではなく、純粋な疲労感だった。試合が終わったのが19時48分。そこから取材対応やクールダウンなどを経てホテルに到着した頃には21時を回っていた。

再試合も投げようと思っていました

 夕食を摂り、長めの半身浴でしっかりと汗を流す。そして、トレーナーの施術を終え、監督の岩井に呼ばれた福本は「明日も投げます」と、迷うことなく宣言した。

「岩井先生は『体の状態はどうなんだ?』って気遣ってくださいましたけど、私としては『大丈夫です』と。試合が終わった時点で『再試合も投げよう』と思っていましたから」

 花咲徳栄の絶対エースとしてマウンドに君臨してきた福本にとって、それは自然な選択でもあった。しかし、岩井から告げられた答えは、「ダメだ」だった。

【次ページ】 岩井監督の「勝つシナリオ」

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