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野球クロスロードBACK NUMBER
甲子園史に残る“東洋大姫路・アンとの死闘”…「20年前の主人公」花咲徳栄エースが明かす“サヨナラ暴投の予感”
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byJIJI PRESS
posted2023/03/24 11:01
20年前のセンバツで伝説の引き分け再試合となった花咲徳栄VS東洋大姫路。当時エースと監督が舞台裏を明かす
この試合だけで220球。3試合で547球を投じたピッチャーの限界を、岩井は悟っていた。
「福本が『いけます』と言ってくれたのは、エースとしての使命感ですよ。実際は無理。トレーナーからも『肩甲骨まわりの筋肉がパンパンに張っていて、いつものような可動域で投げられませんよ』と報告を受けていたし、こちらとしては投げさせるわけにはいかない、と」
岩井監督の「勝つシナリオ」
この決断において、岩井のなかにはあるプランがあった。再試合で「投げさせない」とは先発であり、登板する可能性は「十分にある」ということだ。それは、これまでチームを牽引してくれたエースへの敬意でもあった。
岩井がシナリオを明かす。
「アン君も15回を投げ切っていましたから、再試合はまず先発しない。でも、必ずどこかでは投げる。だからうちも、福本で試合を終わらせたいと思っていました」
再試合は岩井の思惑通り東洋大姫路は控えピッチャーが先発し、花咲徳栄も高橋大輔と宇都木智之が失点しながらも踏ん張った。
土壇場で同点ヒット
1点を追う土壇場の9回表。2アウト二塁の好機で野手として出場していた福本は、打席に入る前にベンチ前で監督と笑っていた。マウンドには8回からアンが立っている。
「絶対に真っすぐ勝負だから。アウトコース1本を張っていけ。変化球でかわすような性格なら、こんな大舞台で投げてないから」
岩井の指示に、福本が笑顔で返す。
頼む……打たせてくれ……。バットに念じながら打席に立つ。3球目。狙っていた外角ストレートをレフト線に弾き返した。二塁ベースに到達し、ベンチに力強くガッツポーズで応える。この瞬間から福本は、すでにモードを切り替えていた。
この回の先頭バッターだったピッチャーの宇都木に代打が出た。じゃあ俺は、9回裏から投げるんだ――と。
マウンドで「やっぱり、ヤバい」
同点打を放つ前からわかってはいたが、やはりそうだった。マウンドに上がり、投球練習の1球目で確信した。
「やっぱり、ヤバいな」
福本にとってそれは、野球人生で初めてと言えるほどの違和感だった。
「肩、ひじが『痛い』じゃなく『体全体が重い』感覚です。登板する前からブルペンでキャッチボールしてもボールが走ってる感覚が全くなく、『自分のボールじゃないみたいだ』って。勝つことだけ考えようとはしていましたけど、頭のどこかでは『どこまで自分の体がもつのかな?』っていうのはありました」