その集団が開発した今年の新車に乗ったアロンソは、さらに驚いた。全チームが新車での走り始めとなったプレシーズンテストで、アロンソが刻んだ自己ベストは1分32秒866。トップのフェルスタッペンに0.029秒差と迫る好タイムだった。

　その勢いは開幕戦でも衰えることはなかった。初日のフリー走行でトップタイムをマークしたアロンソは、翌日行われた予選でメルセデス勢を抑えて5番手を獲得。移籍1年目でトップ3の一角を切り崩す快進撃に驚きつつも、アロンソはさらに上を目指す情熱を見せた。

「うまくやれば、レースではフェラーリ勢とも戦えるかもしれない。そうなれば、表彰台も決して夢じゃない」

　だが、アロンソは決勝レースのスタートで出遅れ、メルセデス勢2台の後塵を拝する。しかし、これが逆にアロンソの闘争本能に火をつけた。

チャンピオン経験者のハイレベルなバトル

　1回目のピットストップでメルセデス1台の前に出たアロンソは、2回目のピットストップ後、もう1台のメルセデスに挑む。ドライバーはマクラーレン時代のチームメートで、宿敵でもあったルイス・ハミルトン。アロンソは37周目にハミルトンのインを差し、一度はオーバーテイクに成功したかに見えたが、ハミルトンも粘る。コーナーの立ち上がりで抜き返して、7冠王者の意地を見せた。

前を行くアロンソとハミルトン。チャンピオン経験者同士によるクリーンで刺激的なバトルは、間違いなくバーレーンGP最大の見せ場だった　©Getty Images

　するとアロンソは次の周に、通常では考えられない方法でハミルトンを攻略しにいった。

「バーレーンでは、通常ならストレートエンドの1コーナーか4コーナーでオーバーテイクを狙う。私も最初は4コーナーで仕掛けた。でも、メルセデスはストレートスピードが速かったので、少しブレーキングで無理してしまい、抜き返された。だから、違うアプローチを取ることにした」

　アロンソが仕掛けた場所は、コーナーの先にストレートがあるため通常はパッシングポイントとならない10コーナーだった。つまり、アロンソはハミルトンに不意打ちを喰らわせ、7冠王者をも翻弄する見事なオーバーテイクを成功させたのだ。

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