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誰が何のために規則を“変えた”のか…各マニュファクチャラーの主張入り乱れる「圧縮比トリック」の真の問題点
posted2026/02/17 17:00
ホンダが今季投入する新たなパワーユニット「RA626H」。新規定に準拠し、電動パワーとエンジンパワーの比率が約50:50となる
text by

尾張正博Masahiro Owari
photograph by
HONDA
「F1は常に、ルールをただ守る者ではなく、ルールを最も理解した者が勝つ世界だ」
格言のごときこの言葉が、いま再び耳目を集めている。
発端は、昨年末に巻き起こったエンジンの「圧縮比トリック」の問題だ。圧縮比とは、エンジン(ICE)の燃焼室内における燃料と空気の混合気が圧縮される割合を示す数値。ピストンが下死点(最下点)にある状態のシリンダー容積と、上死点(最上点)に達した状態での容積の比率のことだ。
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レギュレーションが変更される以前に、18:1の圧縮比で最強エンジンの座に就いていたのがホンダだった。第4期最終年となった2021年にホンダは1年前倒しで新骨格エンジンを導入し、そのとき王者だったメルセデスを倒すべく、燃焼室のデザインを一新。圧縮比を16:1から18:1に引き上げ、超高速燃焼の実現を成功させ、レッドブルとともにドライバーズチャンピオンを獲得した。
ホンダが18:1という高い圧縮比を成功させた背景には、彼らの高い技術力があったことは言うまでもないが、同時に豊富な資金力があったのも事実だ。ホンダは18:1という高い圧縮比を安定して使用するために、気筒内の圧力をリアルタイムで測定するセンサーを各シリンダーに搭載していたが、そのセンサーが非常に高額であることにライバルたちは眉をひそめていた。
圧縮比低下が決まった理由
ホンダがパワーユニット(PU)マニュファクチャラーとしてのF1参戦を終了することを発表した後、26年に向け新たなレギュレーションを策定するPUマニュファクチャラー会議が開催され、最大で18:1までとされていた圧縮比は26年から16:1に変更となることが決まった。表向きは新規マニュファクチャラーがF1に参入しやすくするためとされたが、事実上、ホンダが復帰してきたときのための対策だった。
これにより、26年からのF1は16:1の圧縮比で全PUマニュファクチャラーが同じ土俵に立って争われると思われた。ところが、一部のPUマニュファクチャラーがレギュレーションの抜け穴をついて、違反にならない方法で18:1の圧縮比を運用する仕組みを見出した。その詳細は公になっていないが、「ピストンに特定の材料を使用することで、エンジンが高温になった際に膨張し、実質的に圧縮比を上昇させる設計を採用した」とか、「常温では16:1だが、ある温度に達すると燃焼室の体積が変化して圧縮比が18:1になる」とも噂されている。

