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なぜライコネンはF1界で特別なのか?
「放っておいてくれ!」は信頼の言葉。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byAFLO
posted2012/11/16 10:30
3年ぶりとなるアビダビでの優勝直後、ライコネンを囲むスタッフたちと。「他人が何を考えているのかを気にしたことはないね。自分のやるべきことをやるだけだよ」とクールにコメントしたライコネン。
“Leave me alone, I know what I'm doing”
「自分がやるべきことはわかっているから、放っておいてくれないか」
これは、11月4日に行われた第18戦アブダビGPで優勝したキミ・ライコネン(ロータス)が、レース終盤に無線でレースエンジニアに語った内容である。
今年、F1に復帰したライコネンが最後に優勝したのは、'09年の第12戦ベルギーGP。その年はブラウンGPとレッドブルが一騎打ちを演じ、ライコネンが所属していたフェラーリはわずか1勝に終わった。そして、その1勝を挙げたのが、ライコネン。その1勝を置き土産に、ライコネンはF1を離れ、世界ラリー選手権(WRC)に戦いの場を移したのである。
すっかり丸くなってしまった、最近のF1ドライバーたち。
ライコネンというドライバーは、すっかり丸くなってしまった最近のF1ドライバーの中では、非常に強い個性を持った人間のひとりと言えるだろう。
F1デビュー戦となった2001年のオーストラリアGPでは、レース数時間前にガレージ周辺で姿が見えなくなったとフィジオがパドックを探しまくっていたら、チームホスピタリティの中の自室で熟睡していたという。
実際、驚くほどのマイペースぶりなのである。
'09年にフェラーリ離脱が決定した後、マクラーレンとの交渉が行き詰まったのも、「シーズンオフの間にラリーがやりたい」というライコネンがその主張を曲げなかったからだとも言われている。
そのほかにも、暑いマレーシアのレースでリタイアした後、アイスを食べながらガレージに戻ってきたという逸話がある。モナコではリタイア後、ガレージに戻らず、クルーザーでお酒を飲んでいたこともあった。
F1を離れて2年が経ってもなお、F1界がライコネンのカムバックを欲し、カムバックしてからも多くの人々から支持を得ているのは、ライコネンが自由奔放でありながら、きちんと結果を出す仕事人だからである。