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井上尚弥vsフルトン急転直下の“最高級のカード”はなぜ実現した? 米識者たちが明かす舞台裏「フルトン本人が反対する陣営を説得した」 

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杉浦大介

杉浦大介Daisuke Sugiura

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photograph byHiroaki Yamaguchi

posted2023/03/08 11:06

井上尚弥vsフルトン急転直下の“最高級のカード”はなぜ実現した? 米識者たちが明かす舞台裏「フルトン本人が反対する陣営を説得した」<Number Web> photograph by Hiroaki Yamaguchi

スーパーバンタム級としての初戦が決定した井上尚弥。相手は王者スティーブン・フルトンだ

 こうやって1つの大きな山が動いた背景に、巨額のジャパンマネーが存在することも忘れてはいけない。

 井上戦の報酬は明かされていないが、アメリカでは人気選手とまでは言えないフルトンにとって魅力的な額だったことは容易に想像できる。ドノバン記者も、「日本に行くことでリスクは増しますが、一方でフルトンはアメリカでは得られない高額のファイトマネーを手にすることができます」と指摘している。

 もっとも、金銭が大事なのは当然だが、その一方で、フルトンと何度か対面し、接してきた1人として、今回は金銭だけがWBC、WBO王者のモチベーションだったとは思わない。21戦全勝(8KO)のキャリアの中ですでに9人の無敗選手と対戦し、井上戦まで含めた直近6戦の対戦相手の通算成績は126勝3敗3分。少々地味なファイトスタイルゆえ、フルトンはPBC傘下でも当初から優遇されてきた選手ではなかった。

 それでもハード路線の中で強豪を立て続けに破り、力を証明し続けることで、過去3戦、Showtime興行のメインイベンターを務めるまでにのし上がったのだった。

“最後の相手”に井上を指名したフルトン

 自身の評価、立ち位置を真剣に捉えている印象がある28歳の王者にとって、パウンド・フォー・パウンドでもトップにランクされた井上との一戦はどうしても実現させたい“レガシーファイト”だった。特に減量苦ゆえにスーパーバンタム級で戦える期間はあとわずかだとすればなおさら。

 122パウンドの階級では最後になるだろう戦いの相手として、“モンスター”とのバトルを希望し、フルトンがヘイモンに掛け合ったこと、そしてヘイモンも最終的にはゴーサインを出したことをボクシングファンは喜び、感謝すべきに違いない。すべての当事者、関係者の熱意の結果として、“軽量級スーパーファイト”と呼んでも大袈裟ではない最高級のカードが成立に至ったのだから。

【次ページ】 米国の見解「真の意味で50/50」

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