ファイターズジュニアに不合格で号泣した日

　そんな伊藤も根っこはピュアな小学生。やがて北の剛腕、ダルビッシュ有に感化され、髪の毛を伸ばし始める。

　毛髪はやがて大きな鳥の巣のように膨れ上がり、帽子からはみ出し始めた。だが中学進学を機に、伊藤は大事に育てたロン毛をばっさり切って坊主になる。

父「中学の軟式の野球部に入れば、髪を切らなくて済むんです。でも函館東リトルシニアという硬式のチームに入りたいと言い出して。硬式では通用しないと思ったけどなあ」

母「クラップーズのエースに渡辺幹理くんというすごい子がいて、大海はどうしてもその子と一緒に野球をしたかったみたいで」

　小6のとき、函館東シニアに進むきっかけとなった出来事があった。

　渡辺くんと一緒に、道内の有望株が集うファイターズジュニアのセレクションを受けたところ、渡辺くんは楽勝で合格。自分は箸にも棒にもかからなかった。不合格の通知が届くと伊藤は号泣。落ち込む息子の気分転換にと函館東シニアの練習会に連れていくと、ここでやりたいと言い出した。

　のちに渡辺くんは北海高校の、伊藤は駒大苫小牧のエースという立場で好敵手となり、ふたりはそれぞれ甲子園のマウンドに立つ。だが、当時は大差がついていた。なにしろ打撃練習をしても、伊藤の打球は芝の生えた外野まで届かないのだ。

駒大苫小牧のエースとして力投する伊藤（2014年の選抜高校野球）　©JIJI PRESS

たこつぼ漁のあと、練習につき合った父

　あるとき夢中で打撃練習をする伊藤を見て、「大海はいつだって楽しそうだなあ」と目を細める監督に、渡辺くんがすかさず突っ込んだ。

「だって大海、クラップーズでバントばかりしてたんですから」

　だが、打球は日に日に飛ぶようになる。冬が終わるころには外野の頭を越え、2年目の夏には柵越えも飛び出すようになった。

　毎日練習があったクラップーズとは違い、函館東シニアは週末だけ。だが、練習のない平日を伊藤は生かした。そのことは父がつぶさに知っている。たこつぼ漁は朝が早く、昼過ぎには終わるので、息子の練習にほぼ毎日付き合ったのだ。

父「硬球50球が入った缶を持って近所のグラウンドに行き、私が投げて大海が打ちます。ボールがなくなると、ふたりで拾い集めて、また同じことを」

　グラウンド全面での球拾いはしんどくて非効率なので、やがて伊藤は同じ方向に打球を集めるようになった。右に引っ張り、次はセンター、最後にレフトへ流し打ち。ただ打たせるだけの練習は飽きるので、父は息子のために変化球を習得する。

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