スライダー以外の変化球を投げることを禁止

　器用なゆえに、直球の他にカーブ、スライダー、チェンジアップを操ったが、カーブやチェンジアップを投げる際、どうしても投げる瞬間に緩み、直球の時とフォームが違ったという。そこで田中さんは、スライダー以外の変化球を投げることを禁止した。

「本人も（カーブ、チェンジアップを）投げない方がいいと思ったんだと思います。だから、2年の冬からストレートとスライダーだけで3年の夏まで行きました」

　すると、フォームから緩みが消え、左腕を強く振ることだけに集中できた。肩甲骨周りや体幹、下半身の地道な強化も重なり、左膝が折れる悪癖も解消。右足に乗せた体重がうまくボールに伝わり始めた。

「133キロです」、翌週には「142キロ出ています」

　2011年春の練習試合。今永の直球は133キロを計測した。田中さんは、その時のことを鮮明に覚えていた。

「北筑にはスピードガンがなかったので、相手のチームが計っていたら聞きに行くんです。『133キロです』と言われて、秋から10キロくらい上がったね、と話していたら、その翌週の試合では『142キロ出ています』と……」

　高校入学からわずか2年で30キロ以上も球速がアップした今永の周囲は、にわかにざわつき始めた。

 〈後編に続く〉

#2に続く

今永昇太の高校恩師が明かす、お調子者の左腕が“投げる哲学者”になるまで「1年時はノートを忘れていた」「一度だけ、私がサインを出すと…」