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福永祐一はなぜ騎手人生の晩年に全盛期を迎えたのか?「キングヘイローにようやく恩返しが…」異例のキャリアを歩んだ46歳と名馬たちの絆
text by
島田明宏Akihiro Shimada
photograph byKeiji Ishikawa
posted2023/02/25 11:03
2023年2月19日、東京競馬場で行われた福永祐一の国内ラスト騎乗後のセレモニー。引退を惜しむファンの声援に瞳を潤ませる場面もあった
悲願を果たした福永の目には涙があった。
「初めて緊張に呑み込まれる経験をしたのがキングヘイローのダービーだった。そして、騎手人生のなかで一番悔しくて、無力感を味わったのがエピファネイアのダービーだった。かと思えば、今、経験したことのない高揚感、充実感を味わわせてくれている」
父の洋一氏はダービーを勝てぬまま騎手生活を終えていた。
「父が一番勝ちたかったレースはダービーでした。志半ばで騎手生命を絶たれた父の代わりは誰にもできないのかもしれませんが、喜んでくれると思います。ぼくは、父の名前でこの世界に入ってきました。今日は、福永洋一の息子として誇れる仕事ができたと思います」
無敗の三冠馬・コントレイルとの出会い
ついにダービージョッキーとなった彼は、2年後の2020年、さらに大きな仕事をやってのける。
コントレイルとのコンビで、1984年のシンボリルドルフ、2005年のディープインパクトに次ぐ、史上3頭目の無敗の三冠制覇を達成したのである。83年にミスターシービーで三冠を制した吉永正人の記録を更新する43歳10カ月17日の最年長記録で三冠ジョッキーとなった。
コロナ禍のため、皐月賞とダービーは無観客。三冠目の菊花賞だけは、制限付きで1000人ほどの観客を入れて行われた。
コントレイルは、先代の無敗の三冠馬ディープインパクトの産駒である。
「無敗の三冠馬の息子が無敗で三冠を制覇したのは世界でも類を見ないことだと思いますし、大変な偉業だと思います。その鞍上に自分がいられたことを誇りに思います」
そう福永は胸を張った。
コントレイルを管理した矢作芳人調教師は、福永に関して「あれだけキャリアを重ね、数々のビッグレースを制してきた彼にとっても、この馬とのコンビは集大成になるでしょうね」と、菊花賞の前に話していた。遠からず鞭を置く未来を予感していたのかもしれない。
ルドルフも、ディープも対古馬初戦で敗れたように、コントレイルは次走のジャパンカップでアーモンドアイの2着となり、デビュー8戦目にして初めての敗北を味わった。