“いきなり出た”日本歴代3位記録

　高校最後の年にインターハイと国体少年Aで二冠を達成し、鳴り物入りで入学した兒玉だが、1年時は低迷。夏の九州選手権100mでは12秒46もかかり、決勝に進むことすらできなかった。

　兒玉の引っ込み思案な性格もあり、信岡自身も初めはコミュニケーションに苦戦した。だが、1年時の敗戦などを経て徐々に胸襟を開き合い、段々と兒玉の感覚が信岡の理論に噛み合うようになっていった。大学2年時には世界リレー大会女子4×200m代表に選出。初となる世界の大舞台を踏んだ。

　二人三脚の歩みが花開いた“第一段階”が、大学3年時の日本インカレだった。100mに出場した兒玉は決勝で日本歴代3位の11秒35をマーク。日本記録の更新はおろか、歴代10傑の記録の更新も停滞していた女子短距離界において、21歳の兒玉が残したインパクトは絶大だった。

「出ちゃったという感じで（笑）。これまでよりいい記録が出せそうな感覚はあっても、11秒3台を出せるという自信は全くなくて。信岡先生にはむしろ『この記録に苦しめられないといいね』と言われたのを覚えています」

「出ちゃったという感じ（笑）」と意外そうに過去の記録を振り返る兒玉　©Asami Enomoto

11秒7で勝つのと11秒3で負けるのだったら…

　ニューヒロインの登場に周囲は盛り上がり、世代別で日本一を経験している兒玉でさえ、受け止めきれないほどの反響や期待が寄せられた。元々「ネガティブ思考になりがち」（兒玉）という面もあり、重圧として背負い込み、大会後はメンタルが不安定な状態に。それでも1ヶ月後の日本選手権で初優勝を果たせたのは、師の支えがあったからだ。

卒業後も指導を続ける信岡コーチ（右）　©Asami Enomoto

「やっぱり11秒3が出た後は急に背負ってしまったというか……周りの評価を気にしすぎていたところがありました。絶対に勝たなきゃいけないというプレッシャーも大きくて。でも信岡先生には『11秒7で勝つのと11秒3で負けるのだったら、レベルの低い中で勝つより負けた方がいい』と。
『順位とか周りの期待にとらわれずに、負けてもいいから自分の100%を出そう』と言ってもらえて肩の力を抜くことができました。メンタル面に関しては、信岡先生が隣にいなかったら、上手くコントロールできていなかったと思います」

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